……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-53
「何がそんなにおかしいんです!」
いわれの無い嘲りにイラつく紀夫。口調を少し強めにしてしまう。
「だって、だってさ……。君、やっぱり里美ちゃんのこと好きなんじゃない……、お
風呂でフルチンで叫んでさ……おっかしいったらありゃしないわよ……」
シャワーの音で消していたはずのそれは薄い壁を通して彼女にしっかりと伝わって
おり、しかも不自然に大きい窓からは先ほど見た風呂場が見えたりもする。
――あれってマジックミラー?
鏡に向っていたつもりが、実はベッドで横になる久恵を相手に叫んでいたわけで…
…。
「あ、その、これは、……ずるいです! こんなのフェアじゃないです!」
「何がフェアじゃないよ……、もうおっかしいったら……久しぶりに笑ったわ……」
真っ赤な顔と目尻の涙。しばらくは顔面が痛いだろう笑顔に、紀夫は胸にカッとし
た熱さを覚える。
「僕は……、俺は、その、里美さんとキスしたから……したから、だから……」
弱気はかつての自分を呼び覚ます。それを恋を確かめた勇気で抗い、しかし、言葉
が続かない。
彼女の気持ちが知りたい。
教えてほしい。
伝えたい。
だから、まだ、言葉を、外に出せない。
「キスぐらい……それで好きになるの? じゃあさ……私のこと好きになあれ!」
不意打ちで飛びつく久恵は彼の顎を少し舐めてから唇へと及んだ。
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しがみ付く彼女を抱きかかえるのは、受け止めるのは久恵が足を怪我しているか
ら。無碍に引き剥がせばもつれかかった足で転んでしまう。
「ん、んぅ……んちゅ……はちゅ……」
「ん……はぅ……ん」
数時間ぶりの他人の唇は少し塩からかった。
それでも……同じなのが気持ちよく、辛かった。
彼女が唇の角度を変えるごとにカールした睫毛が揺れ、鼻が擦れ合うたびに「ふ
ん」と荒い息を吐く。
口腔内を侵食する舌は勢いの割りに消極的で、舌先を触れさせては逃げ出し、追い
かけても相手はしてくれない。
彼女の仕草は物足りない。その一言に尽きた。
かつて放課後の部室で見た卑猥なシーン。紅葉や自分、それに里美をあしらいなが
ら帰ったあの日よりもずっと……幼い気がした。
「はぅ……んふぅ……はぁはぁ……、君ってさ、キスするとき目を瞑らないの?」
責めるような視線と震える唇。少し上気した頬が赤く、ウブな処女にも見える。