……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-48
「なんで俺のこと嫌いに?」
そのほころびが彼女の心を暴くきっかけになるかもしれない。彼自身卑怯とも思え
る行為ながらも、彼は久恵の脆そうな部分に詰め寄る。
「だって、そんなこと……」
「嫌いになる前はどう?」
「君っていやらしいね……」
むっとした半眼と腰に当てた両手。ずいと前に踏み出すのは痛いところを突かれた
ことの裏返し……。
「だって、教えてくださいよ……」
「嫌いじゃなかっただけだもん」
もしくは開き直ったせいなのか?
「嫌いだもん。君なんか……」
普段抑えている感情が若干のアルコールで抑えられないのか、久恵は強い口調で繰
り返す。
「なんか嬉しいな……」
対し紀夫は頭を掻いて自惚れからなる照れ笑い。その鼻で人を笑う仕草に彼女の怒
りを誘えたのかもしれない。
「な! ……馬鹿じゃない? 普通こういう時ってさ、別にあるでしょ? ほら、例
えば、そう、何か悩みがありますか? とか、どうしてそんなことを考えるのと
か?」
「そう聞いて欲しいんですか?」
道端で怒鳴る久恵に再び注目が集まるも、紀夫の肩透かしのような返事に気勢を削
がれた久恵は肩から力が抜けてしまう。
「だから、例えばよ。例え」
怒りに任せて吐露したらもう隠すものは何も無い。怒鳴ったせいか気持ちこそ荒れ
ているものの圧迫は薄れている。今吐き出したばかりなのだ。
「……こっちでーす。こっちこっち……」
遠くから聞こえてくる声は徐々にこちらに近づいてきている。それがなんなのか、
行き交う車のライトが教えてくれた。
「やっば……」
女性に連れられてやってくるのは青いシャツと紺色の帽子を被った二人組み。なに
やら重装備だが、それは世に言うオマワリさん。
「もしかして僕らのこと、補導しにきたとか?」
もし今捕まったら休み明けに行われる大会に影響が出るのではないだろうか? し
かも同じ高校の同じ部活動、キャプテンとマネージャー、男女一組なのだ。
もし、これが学校に知られたら? 退部? 停学? 場合によっては悪しき連帯責
任で大会など外部の活動を自粛など……。
「やばいよ。逃げよっか!」
「はい!」
今は久恵の夜遊びよりももっと大事なことがあると、紀夫は彼女の提案に飛びつ
く。
「じゃ、こっち! 着いてきて!」
「はい!」
足を怪我している彼女は走れないが、それでも急ぎ足で路地裏へと潜り込む。
ただ一つ気になったのは、先ほど通った曲がり角で見えた彼女の横顔。
たとえるなら秘密基地に案内する子供のような笑顔で、もしくはこの前朝食を一緒
にとったときにごはん粒を取ってもらったときのそれを思い出せた。