……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-45
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帰り道は行きの爽快な坂道の分だけ辛く長い道のりになる。
さすがにお互い五キロのハンディをしょってまで競争をするつもりは無いらしく、
里美は無口のままだった。
「ねえ……」
「なに?」
「なんでもない」
「そ」
また何も言えない。
いくら優柔不断でもこれはないのでは? ただ、一方で口にしてしまえば今より酷
くなる気がした。先ほどの競争の商品のように。
――里美さんは俺を意識している。だからこそ買い物に誘ったし、キスを賞品にし
たんだ。
確信に似た驕りも言い出せずにいるのは、彼女の、例え照れ隠しでも否定されるの
が怖かったから。
「ねえ」
「何?」
「里美さんは何かない?」
「なんで?」
「だって、暑いし、気晴らしに話したいなって……」
「そうね……」
自転車を止めて何か考えるように斜め上を見る里美は、思い切ったように彼に詰め
寄る。
「君がさっきから言いかけてたことが聞きたい」
「俺が……」
――そんな言い方卑怯だよ。それとも俺が意気地なしなのかな……。
「君と……会ってから、何も変わってないはずなのに……」
「そうかな? 色々あったと思うけど」
陸上部への入部に総体での出来事。日々彼女と話すことも増え、友達以上には…
…。
「んーん、あたし達はずっと止まったまんまだよ。今みたいに……ていうか、今日、
今も」
「そんなこと……」
他の誰かとなら心の隙を抜かれるようにシテいた。けれど里美を前にすると言えな
い、触れない、デキないでいた。
それなのにいつの間にか悩みの種は芽吹いていた。