……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-25
「はは、踏んだり蹴ったりだな。まあ、一日ぐらい大丈夫だろ。布団だってあるしさ
……」
「そう? 良かった……」
とはいえ、これで二日連続の外泊。しかも電話も通じない場所で……。
「弱ったなあ、家に連絡できないと……」
「大丈夫だろ? その頃には電話ぐらいさ……それよかさ、あたし、困ったことある
んだ……」
両手を合わせて腰を低くする綾はやっぱり変わったのだろう。
「何?」
「聞いてくれる?」
手招きする綾に、紀夫は何の躊躇もなしに近づく。
「うん。だから、何?」
笑顔の彼女は昇降口のほうへと行き、誰もいないことを確認したあと、紀夫を強く
抱きしめ、唇を交わす。
「ん? んぅ?」
一瞬の早業に避けることもできず、唇を奪われる紀夫。
柔らかく、ねっとりと酸っぱい唇。頬には乾いていない汗が流れ、ジャージから匂
いがする。
――綾……。
背中を下駄箱に預け、彼女にされるがままになる紀夫。
身を差し出す献身的なサポート。といえば聞こえは良いものの、ただの性的搾取に
過ぎないのではないだろうか?
「んちゅ、あう、れろれろ……ちゅぱ……ふぅ……んぅ……」
キスの快楽に足が哂う。傘たてに手をつくと、彼女も追いかけるようにその手を重
ね、絡めてくる。
「綾……ん、ちゅ……」
唾液が流し込まれ、逆に吸われていく。そんな栄養補給的なキス。
「ん、はぁはぁ……ありがと、美味しかったよ……」
ねっとりとした唾液の糸を伸ばしながら綾は唇を離し、「さあ練習練習」と張り
切って体育館の方へと走って行った。
――綾さん、キス……好きなのかな?
残された紀夫は快楽の余韻に浸り、まだ腰を下ろしたまま。
問題は雨音に混じる不審な音に気付けなかったこと……だが?
**――**
停電がおさまったもののあいにくの天気にタクシーが来られないとのこと。いきな
り山奥に足止めされてしまった紀夫は合宿のホストである大学側に訳を話し、一晩だ
け泊めてもらうことにした。
「はいこれ盛り付けて、それが終わったら今度はテーブル拭いてくる」
「はーい!」
その代わりは肉体労働六時間。白いだぶだぶのエプロンを借り受け三角巾をつけ、
かいがいしく台所を走り回る。
時給換算してみれば妥当と頷くしかなかったが、高校生大学生合わせて五〇人分の
食事の用意は尋常ではなかった。
午後四時から始まり、用意が終わったのが五時半。食事を運ぶのも台所と食堂をニ
十は往復した。しかも途中から練習を終えた学生達がやってきて混雑しだし、さらに
時間がかかってしまう。