……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-21
どれも美味しい。
なのに静かな朝食。
「あの、先輩は……」
とりあえず何か喋ろうとするも、続く言葉が見つからない。
「なあに?」
味噌汁を啜っていた久恵は手を置くと微笑みこそしないが、顔を乗り出して言葉を
待っている。
「えと、料理、上手ですね……」
「うん。普段もしてるからね。っていうか、ごはん粒、着いてるよ……」
久恵は右手を伸ばすと紀夫の横頬に付いた粒を一つ取り、そのまま口に運ぶ。
「すみません……」
既視感を覚える一瞬に、紀夫は胸が熱くなる。
「どうしたの? 赤くなってさ……」
原因である久恵は意に返さず、キョトンとした様子でいる。
「いや、だって先輩……」
「んもう、コレぐらい普通でしょ? それともマネージャー君はしてもらったコトな
いの?」
ようやく気付いた彼女だが、一笑ではぐらかすだけ。
「いえ、その、そういうわけじゃなくて、その……」
「はっきりいいなよ」
楽しむような詰め寄り方は誰かを思い出す。
「先輩にしてもらえるとは思わなかったから……」
「いや?」
「いやじゃないです。でも、驚きました」
「そ」
「はい」
久恵の箸がホイルに向いたところで話はおしまい。二人は静かな朝食を続けていた。
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「えっと、先輩は……」
「なに?」
久恵は濡れた食器を拭きながら彼を見る。
「あの、部活は?」
「んー、今日はパス。足、まだ痛いし……」
「そうですか……」
「できればマネージャー君に……」
「はい、事情は僕が伝えておきますので安心してください」
胸をドンと叩きいつも通りの安請け合い。
「あ、そうじゃなくて……、まあいいわ。お願いね……」
笑顔の紀夫とは対照的にどこか寂しそうな久恵は視線を濡れた食器に移したあと、
小さくため息を着いていた。