……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-17
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別段広いというほどでもない浴槽にはお湯が無かった。
時間設定もできる最新設備なのか、無意味にボタンがあるが使われた形跡もなく、
時間設定を求める点滅が虚しく繰り返されている。
しかし、紀夫が今気にしているのはこの状況。
――俺は何を期待してるんだ?
熱いシャワーを全身に浴びながら再び自問する。あわ立った水が目に入っても気に
せず前を見る。シャンプーが流されたところで水を止めリンスをする。
――もしかして、先輩……、ダメだよ……なあ。けど……。
女性の部屋に招かれ、シャワーを勧められる。
それが意味するのは男女の関係ではないだろうか? 以前のキス未満の接近を考え
れば、彼女はきっと……。
――ダメだ!
心ではそう思いつつも、ボディソープでしっかりと脇の下も洗っていた。
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シャワーを浴びたあとタンスにあったタオルで適当に身体を拭き、居間に戻る。
水分の残る身体にクーラーの風が当たると涼しいどころか寒いぐらい。一瞬身震い
してしまう。
「先輩、上がりましたよ……」
シャワーを勧めるべきか迷うが、ソファに座る久恵はリアクションもない。
氷が滑り、カランと音を立てる。
「先輩?」
グラスは空。褐色の瓶もかなり減っている。
「先輩!」
「ん? あ、ああ、ゴメン……君があんまり遅いから、飲みすぎたかも……」
振り返る彼女はかなり顔が赤い。
「あはは、なんかおかしいね。っていうか、お風呂入って来るわ……」
「危ないですよ……」
「大丈夫大丈夫……」
久恵は千鳥足にも関わらず紀夫の手を払い、そのまま脱衣所へと向おうとする。
酩酊状態での入浴の危険性。
保健の教科書にそのような項目があった気がするが、今目の前でそれを体験学習す
る必要はない。むしろ隠匿すべき事実なのだし。
「だって、そんな状態でお風呂に入ったら……」
「それなら……」
扉に手をつきながらぐるりと上体をそらす彼女はにんまりと笑って言い放つ。
「一緒に入ってくれる?」
「それは……」
「ふふ、冗談よ。まあ、もしその気になったら来てもいいよ? この前の約束、まだ
あるしさ……」
後手をヒラヒラさせながら言い放つ彼女は軽やかに去っていった。