……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-12
「え、別に、そんなの……」
「紀夫君、理恵さんとか里美ちゃんと仲がいいけど、どっちが本命? あ、そういえ
ば綾ちゃんともなんか話してたよね。ねえねえ、誰なの? 君の恋人候補って……」
「恋人候補って……」
女子高生、もしくは女子大生の特に脳内お花畑の面積の広い部類の会話を向けら
れ、紀夫はしばしぎょっとする。
相手は自分より七歳ほど年上のはずなのにと思うも、一方で余計なことも蠢きだ
す。
――俺の本命?
一番最初に頭に浮かんだのは理恵。
初めての相手であり、つい最近も肌を求め合った仲。
先ほどは言葉のすれ違いで分かれてしまったが、それでも明日になれば彼女とも…
…。
――好きってことなのか?
理恵の誘いをふいにしてしまったのは残念なこと。けれど、我慢が出来ないほどで
もない。
肌を重ねていながら、今だ彼女をそれ以上に好きになっていない自分が汚いと思え
るのが癪だが……。
「いえ、別にいません。それじゃあ失礼します」
だからだろう。言葉が荒々しくなり、愛理を少し怯えさせてしまったのは……。
**――**
一人自転車を走らせて帰り道を急ぐ。つもりだった。
普段なら理恵を送っていくついでに公園近くで甘酸っぱいヤリトリをするのに、今
日は無い。
それが彼を遠回りさせたのだった。
ただ街中を自転車で走るのはそれなりに危険が付き纏う。買い物帰りの主婦を避け
たり、ランダムに行き先を決める子供をかわすなど、運転に集中ができない。
仕方なく自転車を降りるも、歩く人の波に煽られ、流されるばかり。引き返そうに
も人は時間とともに増え、それを避けようとすればするほど路地裏へと追い詰められ
る。
――え? ここどこ?
普段歩いているはずの駅前の商店街。けれど二つ路地を突き抜けた先はきらびやか
な飲み処の並ぶ通り。
会社帰りのサラリーマンを出迎える準備に余念がないらしく、どこの店も忙しそう
に掃除をしていたり、乾いた道路に水をまいたりしている。
――あんま用もないしな。
付近に大学もあるため、大学生らしきグループが店を物色していたりするが、自分
にはあと三年は縁遠い。ひとまず路地を出ようとするも人波に逆らえず、さらに別の
世界へと押し流されてしまう。
きらびやかなネオンとお化け電灯の蠢く路地。人気が無いのがかなり不安だが、走
り抜けるには丁度良い。