ニコニコ-1
彼氏の笑顔が大嫌いだ。
あたしが何をするにも、ニコニコ笑って頷いてしまう。
「あたし、キャバクラの仕事することにした」
「そうなんだ」
そう聞いた彼氏は、表情を一切崩さない。
「止めないの?キャバクラだよ?」
「別に脱いだりやらせたりしないんでしょ?」
「しないけどっ!肩に腕回してきたりさ、胸だって触られるかもしれないんだよ?」
彼氏は少しの沈黙の後。
「でも客はそこまでしかできないから。お前に言いよってくる男より俺のほうが上なんだから、鼻が高いよ」
そう言ってニコニコと笑う彼氏。
「でも…」
「お前に人気が出たら、俺はうれしいよ」
「ばかぁっ!!」
そう言ってあたしは家を飛び出した。
彼氏とはもう付き合って二年だけど、付き合い始めた頃からずっとこうだ。
あたしの話にニコニコ。
あたしの頼みにニコニコ。
あたしの涙にニコニコ。
あたしの怒りにニコニコ。
無理なお願いでも、嫌な顔ひとつ見せない。
最初こそ嬉しかったものの、今では嫌な気分しかしない。
なんかバカにされてるみたいじゃん。
それにいくら、何でもあたしの好きなようにできるって言ったって、そんなこと望んでなんていないから。