恋の予感-5
俺が赴任して間もない、ある日の数学の授業中のこと―――
俺が出した質問に、由里子が問いの意味を勘違いし、クラス内がドッと湧いたことがあった…
その時の、由里子の恥ずかしそうに照れて笑う横顔を見た俺は、思わずこの胸に抱きしめてしまいたい…と思うほど心が震えた!
白状するよ…
俺、情けないほど、あの時から由里子のことで頭がいっぱいで…
それが、2ヵ月経った今では、由里子の存在がさらに大きくなり、俺の頭だけでなく、心の中までも占拠してしまっていた。
「やっぱりうそでしょ…」
『うそじゃないって!ちなみと一緒になって、サッカー部の神木や啓太達と楽しそうにしてるお前見てたら、ここが痛んだ…』
俺は手でこぶしを作り、トントンッ…と自分の胸を叩いた。
いわゆる嫉妬ってやつだ…
こんな胸の痛み…前に感じたのはいつだったか?!
遥か昔…俺がまだガキだった頃に、かすかに抱いた感情―――この年になって思い出すなんてな…
そして、それがどんな痛みだったかも―――今なら、はっきりと感じることが出来る。
俺の心の中までも支配する、愛しさもせつなさも…由里子と出逢って思い出したんだ!
これが、人を愛する痛みだったってことも…
『俺教師だし、自分の気持ちに目をつむってきた。これでも、2ヵ月は必死に耐えたんだけどな… ごめん、今日で限界超えちゃった…』
俺はそう言うと、照れ臭くなり笑ってしまった。
由里子もそんな俺を見て、微笑んでくれた。
その瞬間―――俺に向けられた由里子の、眩しく愛おしい微笑みが曇ってしまわぬよう、由里子を守りたい!!…と俺は強く心に誓った。