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優しい人
【青春 恋愛小説】

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優しい人-3

 その場から数分歩いた場所にその公園はあった。割と広い敷地の公園で、龍司はその奥の方、林の中に近いベンチに思織を座らせた。
「あの…優太についての話って何なんですか?」
「あぁ、そのことね。実は沢岸の昔のことなんだけど…聞きたい?」
「ていうか、聞かせるために連れて来たんでしょ?話を聞いたらすぐ帰るつもりなんで」
「OK、先ずは俺と沢岸との出会いについてだ」
 龍司は笑顔のまま話し始めた。
「俺達は小学校からの知り合いでね。あいつは昔から小さかった。だからよくガキ扱いされてね…いじめられてたんだよ」
「優太が…いじめに?」
「そ。そのまま中学に上がると、他の学校の奴まで便乗してね。沢岸いじめは規模をどんどん大きくしていったんだ。だけどね、あいつはそこで抵抗しだしたんだ。たった一人でだぜ?そのせいでぼっこぼこに殴られてやんの。ったく、笑っちまうぜ」
「笑うなんてそんな…」
 思織は自分の体が震えてきているのを感じている。龍司はそれに構わず、笑みを絶やさず話し続ける。
「結局よ…あいつは逃げたんだよな。俺達の中学からなんて、進学する高校なんて限られてくる。どこに進もうが、いじめは必ずやってくる。だから逃げたんだよ。あいつはただの弱虫だ。一度殴りあっただけで逃げ出した、最低のな」
「あなた…あなた何様のつもりよ!」
 思織は怒りのあまり龍司に掴みかかった。
「そんなことがあったたら、優太じゃなくたって…弱虫じゃなくたって逃げたくなるわよ!それに、あなた優太を助けようと思わなかったの?あなたが優太を助けてたら優太は…きゃっ!」
 突然、龍司が思織を地面に押さえ込んだため、思織は小さな悲鳴を上げた。
「助ける?馬鹿じゃねーの?昨日のうちに気付かなかったのか?あいつをいじめてた集団をまとめてたの、俺なんだぜ?」
「やっぱり…」
 龍司の顔には以前として笑みが浮かんでいた。しかしそれはそれまでのとは違い、悪魔のような雰囲気を漂わせているものだった。

 こんな人に付いてきたのが間違いだった…。そんなことを今更ながらに後悔している思織だった。辺りはもう暗く、おそらく人もあまり通らないだろう。つまり助けが呼べないのだ。
「安心しなよ、人なら来るぜ?お前を犯しに、俺の仲間がな」
「そ、そんなっ?!」
「いや〜ラッキーだぜ…いじめがいのある奴を久しぶりに見つけて、その上そいつの彼女の面まで拝めるとはな。しかも次の日にゃその女一人ときたもんだ。これはもうヤるしかないよなぁ…クックックッ…」
 龍司が本性を現し、今にも思織を襲おうかという時に、ガサッと人の足音が聞こえてきた。
「やっと来たか…早いとこヤッちまおうぜ?こいつは結構いい女だ」
 歩いてきた人を見ないで龍司は言う。押さえ込まれている思織からはその姿を確認出来ない。
(もうやだよ…優太…助けて!)
 思織が心の中でそう叫んだ時だった。
「お前の仲間ならとっくに逃げ出したよ。だから諦めて思織を放せよ…」
 思織ははっと気がついた。口調こそ全然違うが、この声…間違い無い。
「優…太?」
「沢岸?!何でここにいるんだ?」
「後をつけて来ただけさ」
「…俺の後つけて来たくせに、今頃登場とは…少しは弱虫も治ったのか?」
 龍司は思織の右腕を掴んだまま、優太の方に向き直る。
 少し自由になった思織も優太を見つめた、が。そこには今まで思織が見たことの無い優太が立っていた。制服はかなり汚れ、乱れている。目付きも鋭く、何よりも肝心の『眼鏡』を掛けていなかった。
「何勘違いしてんだ?誰がお前の後つけたなんて言った?」
 優太は低く、鋭い声で龍司に問い掛けた。
「何だと?」
「僕が後をつけたのは、お前のお仲間さん達のことだ。ここまで来る直前にバレたから殴り合いになったけど、皆逃げてったよ」
 優太はフッと笑い、龍司を睨みつける。
「お前も弱虫だから助かったよ…お前のことだ。何かする時は必ず傍に誰かいるもんなぁ?仲間がいないと何も出来ない弱虫君?」
「…ってめえ、言いたい事言ってんじゃねぇぞ?」
 龍司はそろそろ怒りの余り優太に襲いかかりそうである。


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