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優しい人
【青春 恋愛小説】

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優しい人-2

 その後、いつもは思織の家まで優太が送り届けるのが常だが、今日は思織が優太の家を訪れた。家と言っても優太はアパートの一室に一人暮らしをしている。
「優太、さっきの人誰なの?」
「中学までの同級生さ。そう思いたくないけどね」
 優太はいつもの優しい口調に戻ってはいたが、少し疲れているようだった。
「心配かけてごめんね。大丈夫、思織に迷惑は掛けないから」
「でも…さっきの優太、とっても怖かったよ?今までの優太じゃないみたいで…」
 思織が言い終わる前に、優太は自分の腕で思織を包み込んだ。
「あいつの前だけだから…思織の前であんな風にはならないから。だから安心して?」
「無理だよ…私を安心させたいなら、ずっと…今のままの…優しい優太でいてよ…」
 それは思織の心からの願いだった。
 優太の過去はあえて聞かない。その方が優太を傷付けなくて済むと思ったから。
「…わかった、約束するよ。それに、もうあんなやつらと会うことも無いだろうしね」
 優太の見せる優しい笑顔、思織はそれが一番好きだった。
「優太…」
「何?」
「私恐い優太は見たくないけど…優太のこと、大好きだよ?」
「ありがとう。僕も思織が大好きだよ」
 二人は静かに口づけを交わした。

 その日の夜、シャワーを浴びながら優太は今日のことを振り返っていた。
「くそっ!!何であの野郎がこの町にいるんだよ?!」
 中学時代の辛い思い出。それと決別するために一人暮らしにしてまで地元から少し離れた今の学校に進学したのだ。しかし、あの男の出現で現状が変わった。それまでの悪夢が甦る…。
「ちくしょ〜…」
 バスルームから出た優太は鏡の前で眼鏡を掛けた。

 コンタクトではいけない。優太の中で、眼鏡は自分の黒い部分を抑制する道具でもある。もっとも、高校に入学してからその効力を必要とすることは一度も無かったが。

「これを外すことになったら…本性見せたら思織にも嫌われそうだな」
 自嘲的に笑う優太。
「何も起こらなければいいんだ。何も…」
 思織との幸せな、そして平和な日々を優太は切望していた。
 しかし、その希望もすぐに打ち砕かれようとは、この時思いもしなかった。

 翌日の放課後、今日は優太が委員会で遅くなるということで、思織は一人で家に向かっていた。
「優太、大丈夫だよね…」
 彼氏の精神的な面が一番心配な思織。優太には常日頃温かく見守られていて、思織の心はいつも癒されている。故に、たまには自分が優太の心を癒してあげたいと思うのだ。
 思織がそんなことを考えつつ歩いていると、ふと隣に車が停まった。
「やぁ、昨日の子だね?」
 その車は昨日思織達が見たのと同じ車、そして後部座席には昨日と同じ男。昨日と違う点と言えば…その男が車から降りて、車はそのまま走り去っていったことぐらいだ。
「改めて挨拶しとくよ。俺は武藤龍司。沢岸の中学までの同級生だ」
「ど、どうも…」
「確か…しおりちゃんって言ったよね?詩(うた)に織物の織って字書くの?」
「いえ、『し』は思うって書きます」
「そうだんだ〜いい名前だね」
 龍司は笑いながらそう言った。
「あのさ、沢岸が一緒じゃないなら、ちょっと時間いいかな?話があるんだ、沢岸優太についてのね」
「え?!優太のこと…?」
 思織は優太という単語に敏感に反応してしまった。
「そ。だからさ、近くに公園あるじゃない?そこで話そうよ」
 そう言われ、思織は無意識のうちに龍司に付いていってしまった。


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