カウントダウン-4
ごー、よん、さん、にぃ、いち
カウントダウンが終わると、暖かくて骨っぽい掌があたしの頭を優しく撫でてくれた。
先生があたしに触れる時、五秒程時間が空く。
例えば指先でも、唇でも、髪の毛だってそう。
そして、あたしの体を暴くときでさえも。
どこでだって先生は触れる直前にピタリと止まる。それはまるであたしに触れるのを躊躇しているように。
ごー、よん、さん、にぃ、いち
あたしは、その度に心の中でカウントダウンを数えながら、先生が触れてくれるのを待つしかない。
先生が止まってる間―――つまりはあたしがカウントダウンをしている間、先生は何を考えているんだろう。
目の前の先生に視線を移す。
伏せられた睫毛に、窓から降り注ぐ冬の鈍い太陽の光が当たって、キラキラと綺麗。好きだなって思う。そしてそれを伝えたいとも。
「先生」
「ん?」
「好き」
「どうした急に?」
「別に。先生は?」
「俺も好きだよ」
目尻の垂れた柔らかい笑みがあたしに向けられる。
この瞬間が世界中のどんなものにも代え難く、愛おしいと思う。
教師と生徒。
なんてリスクの高い恋。
そんなこと自分でも分かってる。恋バナだって正直に友達と出来ないし、近場だと堂々と会うことだって無理。
それに、あたしはまだ子供で、先生にたしなめられることだってある。いつまで経っても埋まらない人生経験の差が恨めしい。
恋に恋する年頃だからって、禁じられた恋に浮かれてる訳じゃない。
ただ、先生が好きで。先生もあたしが好きって言ってくれて。
なのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
先生が養護教諭のセクシーな美人に色目使われてるのも知ってる。あたしだってこの間、クラスメイトに告白されたんだから。……勿論断ったけど。
こんなの気にすることもないことなのに。
先生のカウントダウンの間が、あたしの心に影を落としていく。
心も体も繋がって、溢れるくらいの幸せに満たされていても、いつだって不安の影があたしの足元でちらついて、心を蝕んでいく。
先生があたしにすぐに触れてくれるだけで、そんな不安はどっかに飛んで行っちゃうのに。
ねぇ、先生は一体何をためらっているの?