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カウントダウン
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カウントダウン-3




「何これ?」

「勉強道具」

 あたしの問い掛けに、先生はあっさりと答えた。それくらい見ればわかるよ。
 ペンにノートに教科書。これが何かわからなかったら高校生として壊滅的だと思う。というか、あたしが言いたいのはそんなことじゃなくて。

「今日は映画観るんじゃなかったの?‘二百一匹豚ちゃん’」

 折角の日曜で、二人っきりで、目一杯お洒落もして。
 それなのに、なんで先生の部屋のガラステーブルの上には勉強道具があるのかがあたしには疑問だった。

「ほら、映画観ようよ」

 部屋の端に追いやられたピンクの豚が印刷されたDVDのパッケージを目敏く見つけて、先生の眼前に突き出す。

「あっ」という間に手からかすめ取られて、ピンクの豚は先生の手に堕ちた。豚の裏切り者め。

「これは勉強の後な」

 パッケージのピンクの豚は、分厚い教科書の間に挟まれてしまった。プギューって断末魔みたいな悲鳴が聞こえた気がした。

「もう成績気にしなくていいじゃん」

 あたしは不機嫌に先生へ投げかける。もう進路の決まったあたしには、今度の定期試験なんて微塵も興味がないものだった。

「だからこそ真面目にやるんだよ」

 不貞腐れて頬を膨らませると、豚そっくりと笑われて、余計カチンときた。フンッてそっぽを向いてやるんだから。

「最後くらい、最高点で終わりたいだろ」

 思わず、むぅと唸る。
 優しい声に穏やかな口調。あたしはこんな時の先生に滅法弱い。ぶつくさ愚痴りながらも、結局教科書の前に向かう羽目になる。

「教師ぶっちゃって」

「ま、事実教師だしな」

「あっそ。……ねぇ、じゃあさ勉強頑張ったら」

「はいはい」

「映画じゃなくて、先生が欲しい」

 あたしの言葉に、先生の瞳は一瞬だけ見開かれ、そしてすぐに細められる。
 先生はこんな時あたしのことを可愛いって思ってくれる。これは自惚れじゃない筈。



 だって、その証拠に、ほら。
 先生の大きな掌が、あたしの頭に落ちてくる。


 そして、まただ。

 また先生の動きが止まる。


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