黒魔術師の恋愛事情〜麻里-1
「じゃあな、麻里。お前とはもう終わりだ…」
目の前の真彦はそう告げる。隣には自分ではない女がいる。
「え?どういうこと?わかんないよ!」
麻里は真彦に訴えかけるが、真彦は反応しない。
「じゃあな…」
真彦は後ろを振り向き、歩いていく。隣の女も、真彦と腕を組んで歩いていく。
「え、待って!行かないでよ!真彦君!」
麻里は追い掛けるが、何故か一向に追い付かない。
「真彦くーん!!」
「はっ!」
気付くとそこは自室のベッドの上だった。真彦も、あの女もいない。
「夢か…やっぱり真彦君のこと、信じられてないのかなぁ?」
麻里がそう呟くのには理由があった。
それは一昨日の昼休みのこと。
「ねぇ、麻里って彼氏いるよね?」
高坂麻里の隣の席、兼麻里の友人である鮎川蛍が尋ねてきた。
「え?う、うん…」
麻里は頷く。
「あれ麻里の彼氏だったと思うんだけどさ…ラブレター貰ってたよ?しかもあの海堂さんから…」
「うそっ?!」
友人からの情報に、麻里は驚きの声をあげてしまった。
蛍の言う『海堂さん』…本名『海堂千夏』は、麻里と同じく校内三人美人に選ばれている人物である。背が高くスポーツ万能、もの静かな性格でお姉さん的な女性である。
「初めて見たよ、海堂さんが真っ赤になって手紙渡すなんてさ。あれは絶対ラブレターだって」
「で、でも、まだ私振られたわけじゃないよね?」
「それがさ、手紙渡された時に結構頷いてたのよね…しかも…」
蛍は首筋を掻きながら、こちらもどうしたものかといった表情を見せていた。
「噂じゃ麻里の彼氏を海堂さんが狙ってるって話だし…彼氏と大丈夫?」
「うん…放課後聞いてみるね…」
麻里は不安の渦の中に巻き込まれた気分だった。
そして放課後、麻里は真彦を迎えに行こうと真彦の教室へと向かっていった。
「黒須くーん、帰ろう…」
「あ、ごめん。今日光輝に呼ばれてんだ。先に帰っててくれないか?どんだけ時間かかるか分かんないからさ」
真彦はごめんなと麻里に謝った。
「やっぱり…海堂さん関係?」
「うーん、そんな名前も出てた気はするけど…詳しくはよく分からん。けど何で?」
「…ううん、何でもない。また明日ね」
麻里はできるだけ平静を保ってその場から走り去っていった。そうしないと、嫉妬心で狂いそうだったから…。
明日ちゃんと聞こう。大丈夫、真彦君を信じよう。そう自分に言い聞かせて、麻里その日を過ごした。
そして昨日、真彦は学校を休んだ。それだけならまだよかったかもしれない。
あの海堂千夏までもが休んだのだ。
麻里は人生の中で今まで無い程の不安に陥っていた。メールをしようにも真彦と海堂が二人でいた時のことを考えてしまうと怖くてメールが出来ない。真彦の親友の光輝には尚更だ。
麻里は真彦に心を奪われている。不良に絡まれた時、助けてくれた真彦。麻里にとって、真彦のいない人生など考えられなかった。