LAST DAY-5
「それは……」
答えなんか俺は持っていない。そんなの、考えたこともない。明日がないかもしれないなんてそんなこと、俺はどうせ続いていくのであろう凡庸な未来を憂いてるだけで。
いつでも始められると思った。今じゃなくても、いつかそのときがきて、俺はやりたいことをできるようになるんだと思った。だから我慢したんだ。いつかの俺の為だったんだ。だけど、もしも、もしも明日で世界が終わってしまったら、俺の我慢はどこへ行ってしまうんだろう。
「ま、ボクの知ったことじゃないんだけど、さ」
そう言って俺に背を向けると、
「じゃあね」
「あ、待てよ。きみ、名前は?」
「もみじ。なんでボクの名前なんか知りたがるかな」
「いや……あの……女の子、だよな?なんで」
「『もみじ』は男だよ。……ボクが女だと思った?」
「い、いや、まあ……」
「ふふ、きみ、鋭いね。母さんより鋭いかも」
そんな意味深なことをいって笑う。どういう意味か尋ねたかったが、急いでいる様子なので、俺はそのことについて深く聞かなかった。
それにしても……お、男の子だったのか……。てっきり女の子だと思っていた。今時の子供はわからないものだ。
「今から学校へ行くのか?」
「行かないよ。最後の日に学校なんて行ってる場合じゃないし。ボクはここを通りがかっただけ。行くところがあるからね」
「行くところ?」
「そ。ボクの我慢も今日で終わりなの」
そういって、けれどさして嬉しくもなさそうに、もみじは遠くを見ている。まるで痛みに耐えるような表情だと思った。でも、さっき会ったばかりの少年のことだ、俺には何もわからないけれど。
「……もみじは、最後に何をするんだ?」
興味本位にすぎなかった。大人の俺に対して物怖じせずに説教をするようなこの不思議な少年が、明日で世界が終わるとして、今日をどうして過ごすかが気になったのだ。
もみじは笑った。
「人を殺すんだ」
そうして今度こそ俺に背を向けて、どこかへ行ってしまった。