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なにげない一日
【家族 その他小説】

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なにげない一日-2

穏やかな時間は一変、幼稚園児が帰ってくると急に騒がしくなる。
帰宅後すぐに始まる兄弟喧嘩に、こっちは落ち着いて晩ご飯の準備もできない。

「お母さん、ヒロが俺の剣とった!」
「おーれーのー!」

覚えたばかりのぎこちない"俺"を使って訴えてくる。

「剣って?」

二人が取り合うそれは、サランラップの芯。
リサイクル用のゴミ箱から引っ張り出してきたんだな。ていうか、ゴミを巡って喧嘩かい…

「またとっといてあげるから」

そう頻繁にサランラップの芯なんか出ないけど。

「俺が見つけたの!」
「剣のおもちゃなら他にもあるでしょ」
「だってこれ望遠鏡になるんだよ!変な声も出るし!ほら、ボエェ〜」

変な声はあんたのさじ加減一つだろうが。

「じゃあ順番こで使って」
「えぇえ〜」
「やなら捨てる!」
「ぶー」

半ば強引になだめて再び家事に着手する。
…こんな調子で朝から何回怒ってるんだろ。

『主婦の幸せ』

この世にそんなものが存在してるのか。
それとも私達みたいな底辺の主婦には関係ない事なのか。


「お母さん、ヒロが泣いた」

早くも二度目の呼び出しがかかる。
ため息をついて包丁を置いて泣き声の方へ向かった。

「どうしたの?」
「お兄ちゃんの本が落ちてたの」

泣いて話せない三男の代わりに次男が説明してくれる。足下には小学生の長男の国語辞典。これにけつまづいたか。

「大丈夫、痛くないから。こんなとこに本を置いてる兄ちゃんが悪いんだよ」

辞典を拾いあげて机に上げておいた。

「にぃに、かえってきたら、おこって」

嗚咽も治まらないくせに、言う事だけはいっちょ前。
私の妹もそうだった。
末っ子は、口がへらない。




夕方、小学生が帰宅すると更にやかましくなる。
子供が増えるからもそうだけど、私が怒る頻度が増えるからだ。

「あんたがほかっといた辞典のせいでヒロが転んじゃったの!」
「はいはい」
「勉強で使うって言うから買ってあげたのよ?ちゃんとしまっておきなさい!」
「はいはい」
「はいは一回!!」
「はいはいはいはいはいはいはいはい」

ムッカつく…
勉強はできないくせに親を怒らせる知恵だけは持ちやがって!
思わず殴りそうになった拳を左手で包んだ。


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