触れる、指先-3
「……俺、とっ!」
実物を見たのは初めてだけれど、それが何だかくらい私にも見当が付いた。スーツだし、正座してるし、……でも真っ赤になってる智基を見たのは初めてで。
告白の時だってさらっとしてたのに、今は焦ってる感じで。
「優奈、さん。結婚、してください」
「……は、はいっ!」
見当が付いたとしても、やっぱり突然の事に頭が追い付けないみたい。けれどバラバラと零れる嬉し涙で視界はぐちゃぐちゃ、メイクはボロボロ。それでも私は必死で頷き、返事をした。
ソファーから智基に飛び込んで抱き付く私を抱き止めてくれた智基の体は熱くて、少しだけ震えてた。
「指輪、つけてくれるか?」
そっと離されて、未だ震える指先で私の頬をなぞり、静かに言った。
「うん、……智基がつけて?」
メイクが崩れてるのを気にしつつも微笑んでそう言った私に彼も「これからもよろしくな」と微笑んだ。
…さっき慌てて出ていったのは、宝石店からの連絡があったかららしい。
本当は自分の部屋でキメようと思っていたらしいんだけど、その連絡を受けてバタバタと出ていったのだ。
私が怒ってると思って今日はやめるしかないかと思いつつ家に来たものの、ソファーで寝てる私を見て「やっぱり今日だ」と思ったのだとか……。
「お父さんがさ、」
「わー!止めてくれよ緊張するだろ!」
あれからひと月。二人の休みに合わせて、私の実家に彼と向かう。大学の時以来で、話もあるから、と緊張しっ放し。
「いざとなったらフォローよろしく」
「ラジャッ!」
いつになく弱気な彼が、私の手に触れた。手を繋ぐなんて久し振り、とドキドキしたけど、触れた指先の冷たさが愛しくて、おどけながら、私から手を繋いだ。