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触れる、指先
【大人 恋愛小説】

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触れる、指先-1

 電話で『20日は休みだからウチ来いよ』と言ったのに。

「ゴメン、今から行くトコできたから。鍵!締めといてっ」

 そこはアパートの一階。
 玄関まで着いていた私の横をすり抜けてさっさと出掛けていった彼――智基とは付き合って8年。大学に入ってからの付き合いで社会人になってからも互いの休みを利用しながら過ごしてた。

「最悪」

 仕事の忙しい智基とは久々に二人で過ごすはずだった折角の休み。デートに出掛ける気満々で気合いの入ったメイクまでしてきたのに。

「智基のばーか」

バタバタと出掛けていった智基の部屋は渡されていた合鍵で戸締まりをして、私はアパートを後にした。

 最近昼にはは会えない事の方が多い。仕事としてはサラリーマンなのだけれど、彼はいつことはなく「仕事が入ったんだ」とよく言っている忙しい人。

だから今日みたくドタキャンされるのも一度や二度ではなく、社会に出てからはよくある事だった。私としては生き生き仕事をする智基を好きだと思う気持ちはあるけれど、デートのドタキャンをされるのはやっぱり寂しい――。

そんな寂しい時にはいつも付き合い始めたばかりの頃を思い出しているんだ。

「優奈が好きだ。付き合ってよ」

そう言われた、あの頃。田舎者でオロオロしていた私を構ってくれた同じ科の男の子。話上手の聞き上手で、私は直ぐに打ち解けた。サークルだって同じものに入って、よく一緒に行動してた。

告白されたのはその夏。
 サークルに入ってからは友達も増えていった私は次第に女友達と動くようになって、智基は二の次になっていた。

初めての前期試験が終わり、長い夏休みに入るという日――…「優奈、話がある」と呼び出されたカフェで私は彼の若干強引な告白を受けたのだ。…少し強引な彼に惹かれていたから。

声を掛けてくれたのも、告白も、全部彼からで、私は全て受け身だった。初めてのデートも、初めての彼の実家も、全部彼のリードがなきゃ進まないしやり遂げられなかったはずで。

最近は会えたり会えなかったりの私達。今日だって智基の顔なんて見てない。慌てて出ていくものだから、チラリとしか見えなくて。

そう言えば、付き合って8年になるなあ。

ため息を吐きながら、自分の家に帰って直ぐマグカップにコーヒーを入れソファーに座る。張り切ったメイクを落とそうかどうしようか考えながらも一連の流れでテレビの電源を入れた。

「ふぁ……」

 気が抜けたら眠くなってきた……ちょっとお昼寝しちゃおっかな。

テレビをつけたものの、暫くすると気が抜けて眠気に襲われた私はソファーに座ったままウトウトし始め――…あっという間に眠りに落ちていった。


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