触れる、指先-2
「優奈」
夢の中、彼が私を呼んでいた。 最近は名前もあまり呼んでくれない彼が、あの頃の様に何度も。
「優奈」
彼が呼んでくれる、響きが好きだな…。
「優奈、起きて」
そう、大学で講義中に居眠りしちゃった時も隣からこうやって――…
「起きろって」
「……ふふっ」
そう言えば夢に智基が出てくるなんて久しぶりかも。
「ふふっ、じゃないって……ったく。寝坊助!」
寝坊助!と言われた時、ペチ、とオデコに叩かれたような感触があって、私は目が覚めた。
「……と、もき?」
「何だよ」
やっと起きたか、と笑う姿は夢じゃなく、現実で。寝呆け眼でぐるっと周りを見回して漸く自分の部屋に智基が居るんだって理解した。
「え……何してるの」
部屋を見回した時に見た時計から、私は少なくとも三時間は寝ていたみたいだったんだけど、智基が居る訳は分からなくて、訝しんだ口振りで智基を見る。
「何って、会いに来たんだけど」
「仕事じゃなかったの?」
「いや、違う。行くトコあっただけだよ」
「……スーツで?」
「あ?ああ、まあ……」
あたしの座ってるソファーの前で胡坐をかいて座った状態で、モソモソとジャケットの裾を引っ張ったり足を組み替えたり、何だか落ち着きが無い。さらには、何やってるの、という目で見ている私をチラリと見ては目を泳がせる。
「今日は急にゴメンな」
……私に後頭部を見せながらボソッとそう言って、胡坐を正座に変えた。
「どこ向いて誰に言ってるのよ」
正座だって私に向かってなくて、私には智基の左半分しか見えていない。
意味不明な行動をする智基に首を傾げていると、突然ぐるっと智基の向きが変わり、私と正面で向かい合った。
「な、何!?」
あまりの勢いにビクッとしたところで今度は私の手を掴み、ソファーに座っているせいで若干目線の高い私の目をじっと見上げる。
「優奈、俺……」
「ん?」
そして、ゴソ、とポケットから小さな箱を出して、私に突き出す。