多分、救いのない話。-8--14
『この位置でいいの? 祐樹さん』
ああ、歪む前の過去だ。走馬灯のようなものか。
『うん、いいよメグミはその位置。晃、お前フレーム入ってる』
マジか。悪いな図体デカいんや堪忍してや。
『あれ、メガホンない』
すまん祐樹、人ハケするんに使ってん。あれ、どこやったかな?
『おいー、メガホンないとただでさえ僕監督らしくないのに』
『そんなことないわよ。あなたがいないと撮影回らないもの』
『〜〜そ、そうかな』
分かりやすいやつ。
『メガホンなら、はいこれ』
いや、神栖。これ機材貸出し表やから丸めてメガホン代わりって、まあええか。神栖なら。
祐樹。ま、気持ちは理解るで。親友やし……俺も、神栖のこと好きやし。人気あるからな、ライバル多いで――
でもなあ、なんで?
なんであんなことしたん?
なあ、祐樹……
「………!?」
飛び起きはしなかった。痛みに反射で後頭部に手をやると、頭にはガーゼの上にネットが被さっていた。見覚えのある天井。
病院だ。木下先生のところに運ばれたらしい……慈愛に後頭部殴られて。
そうだ、社長はどうなった?
「気がついたですか?」
「わっ!?」
人がいることに気がつかなかった。慌てて起きる。慈愛だ。
「一応頭ですから、しばらく入院って木下先生が言ってました」
妙に早口で、事務的な抑揚のない慈愛らしくない話し方。
「……あ、」
そうか、彼女の首を……絞めている時に、慈愛は止めるために頭を殴ったのか。
「謝らないですよ、メグは」
「……ああ、ええよ」
「お母さんが言ってました。お母さんがちょっとからかい過ぎたって、ひーくんがびっくりしただけなんだって」
いやどう考えても本気だと思うが、慈愛が来なければどうなっていただろう。
彼女を殺していたのだろうか。
「……すまんな」
「お母さんが、ひーくんはもう大丈夫だって言ってました」
「何が?」
話の前後が繋がらない。恐らく多分、謝罪の言葉は無視された。
「そう言えば分かるって」
「いや……ああ」
《容疑者》から外れた。そういう意味だろうか。
あのやり取りでどう判断したのか。やはり彼女の思考はよく分からない。
とりあえず濡れ衣は晴らせた。だが。
「メグちゃん、知ってたんやな。社長から、聞いた」
「……それで?」
「別に怒ってるわけやないねん。びっくりはしたけどな……なあそれでやねんけど」
一呼吸。頭が脈打っているのは、果たして怪我のせいだけなのか。
「あいつのこと、どこで知ったん?」
訊いた。後戻りはもう、
「ひーくん」
慈愛は普段ののんびりとした雰囲気はなりを潜め、
「お母さんと、別れませんか?」
慈愛は、あの母親に何処までも似ているこの子供は、しかし痛みと歪みを怖れながら、火口に忠告する。
喪失の恐怖を押し殺して、真剣に真摯に誠実に。
そう、これは忠告だった。