多分、救いのない話。-8--13
彼女は全裸で、《あいつ》に跨り繋がっている。恍惚としながら、指先を眼窩に捻り込み白く黒く丸い《物体》をブチブチと引きずり出した。ビクンビクンと《あいつ》が跳ねる。その動きに感じたのか熱い吐息を吐き出し、嬉しそうにチュルンと《物体》を口に含む。赤い唾液が唇の端から垂れた。くちゅ、とゆっくりと噛みしめている。噛みしめながら、左手に大きな刃物を持ち出し、
胸に突き立てた。力任せに刃を捻りこむ。骨のバキバキと折れる音をマイクが拾う。女の息は荒く絶頂の寸前で、刃を捻りこみながらも腰をより深く落としこむ。全身を血に染めながら感極まって身体を震わせた。そして両の手を無理矢理に胸の中に入れ、赤黒い拳大の臓器を引きずりだす。まだ女と《物体》は繋がっていた。女はまるで宝石の原石を扱うように慎重に、血の滴るその臓器を見つめ、うっとりと舌を這わせ、そして小さくかじり咀嚼し飲み込み、
映像が、消えた。彼女が消した。
全身から汗が噴き出し動悸が激しい。胃液が食道を逆流する。この映像を全否定したい。だけど彼女はそれを許さない。
「ね、答えて」
だって映像と同期したかのように、現実の彼女も――恍惚の表情を浮かべているのだから。
「慈愛にこの人を教えたのは、あなたなの? 晃さん」
とろりと甘い蜜のような声音に、火口は――
「違う……」
火口は否定する。
「こんなん、絶対ちゃう……」
火口は、拒絶する。
「違っ……こんなん」
復讐は、復讐なら理解も共感も出来る。《あいつ》がやったことを思えば、復讐を思わないというのは、少なくとも自分には無理だ。ぶん殴ってぶん殴ってぶん殴って殺してやると、自分だって思ってた。
けれど、これは“違う”。
こんなのは、復讐じゃない。こんな、こんな、ただひたすら痛みと歪みを与えるのを愉しむような、こんな事は、絶対――
「うおおおぉぉ!!!」
恐怖と混乱を叫びながら、女の――痛みを歪みを愉しむ《怪物》の首に、手をかける。
絶対、違う。
生かしてはいけない。この《怪物》は最悪の災厄しか招かない。
絶対、絶対――
後頭部が割れた。
まず衝撃。それから痛覚が走り視界が白くなり赤くなり黒くなり脳が現実の認識をしてくれないふらふらする身体が落ちた彼女が二人いる違うダブって見えているあれ四人になったお母さん大丈夫ああメグちゃんが俺を殴ったからお母さんは大丈夫水と血が混じって花が咲いてるでも花瓶で殴るのはあかんと思うでメグちゃん