青に染まる少女-12
「貸せ」
不意に手が伸びてきて、私の耳元から携帯を奪った。
「え?あの……」
いつの間にか戻ってきた志臣が、私の携帯を耳に当てている。
「ちょっと……」
抗議の声を出すと、左手に持った飲み物が2つ載ったトレーを押しつけられた。
「もしもし、藍さんのお母様でいらっしゃいますか?わたくし、T*S事務所の都甲(トコウ)と申します」
トコウ?志臣の名字だろうか?
それに、T*S事務所って、どこかで聞いたような……。
考えを巡らせる私の隣で、志臣は先ほどの態度とは打って変わってにこやかに話している。
二重人格なんだろうか?
「お嬢さんの件ですが……はい……はい……えぇ、そうです。……はい……もちろんです。……はい……」
志臣の相槌の合間合間で母親の声が漏れてくる。
周囲の賑わいが大きくて、何を言っているかまでは聞き取れないが、声を荒げている感じではなかった。
「はい、責任を持って、はい、お預かり致しますので」
お預かり?
相槌の末に聞こえた単語に、私はギョッと反応した。
預かるって誰を?私を?
うろたえる私をよそに、志臣は丁寧な言葉で電話を終えた。
ポケットから出したハンカチで待受画面を拭き、私に持たせたトレーの上に載せる。
「あのっ……預かるって、いったい……?……っ」
こちらを見た志臣の瞳は、鋭いそれに戻っていた。
「とりあえず座れば?」
トレーから飲み物のコップを取り、ベンチの端に腰掛ける。
私は鞄をベンチの真ん中にずらして、志臣と反対の端へ座った。
「飲み物、飲めば?」
志臣がストローを咥えたままで言う。