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Heaven knows.
【ファンタジー 恋愛小説】

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Heaven knows.-3

 ドクン、ドクン、とうるさいほどに脈打つ心臓。これほどまでに緊張した事が果たして過去に何度あったことだろうか。

 あと一歩、という所で一度足を止めて、目をキュッと瞑る。触っても良いものか、と戸惑ったけど、ここまで来たからにはやらなくちゃ。

 ――そう決意してから瞼を持ち上げた私の視界には、

「――ようこそ、我の姫」

 鮮やかな緑の木々に囲まれ、クスクスと笑いながら社の屋根に腰を掛けて私を見下ろす煌びやかな男の姿が飛び込んできた。

 鮮やかな緑に違和感を感じて、アヤちゃん達を振り返った私の視界に、今度は二人の小さなこどもの姿が飛び込んできた。

「ようこそー」
「いらっしゃいましー」

 二人のこどもは甲高い声でそう言いながら私の回りをクルクル駆け回る。
 ハッとしてもう一度アヤちゃん達が居るはずの場所を見ても、そこには鮮やかな緑以外誰も何もなくて――…私は夢を見ているんだよね? と、不意にズキズキ痛くなりはじめた頭を押さえた。





「頭が痛いのか?」

 聞き慣れない、けれど透き通った声が近付いてきた。

「ミモリ様が居れば大丈夫ですー」
「きっと空気が違うからー」

 頭を押さえ、ガクッと膝から崩れた私を見て、クルクル回る足を止め心配そうな表情で私を見ている不思議な二人のこども達。それを押し退けるように煌びやかな姿をした男が私に――…私の唇に触れた。

「…ぁ……」

 瞬間、スッと痛みが引いていき、後に残るのは甘美な刺激。唇にはキスをされたわけではない。触れたのは男の指先。
 それでも何故か私の頭痛はスッキリと落ち着いて、冷静になれた。

「我の姫、気分はどうだ」

 けれども現代では一般的とは言えない和装の男に髪を撫でられながらそう言われたところで、私は答えられない。

「どうした、感動で声がでないのか」

 クスクスと笑っている男。
 髪も瞳も全てが闇のようで、それでいて雰囲気は天(そら)のように澄んでいる。

「我の名は深守(ミモリ)。この社の主だ」

 ふ、と笑って私の手を取る。

「名は?」

 立ち上がらされ、震える足を押さえる私を見ながら、「ミモリ」は私の手を引いて社の真ん前へ向かわせた。


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