Y先生の乙女な不安-3
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放課後の社会科準備室。
事務的な作業をする私の横には、今日も彼がいる。
「毎日とかマジめんどくさいし。」
ハルが教科書をとんとん、と指で叩く。
「必要なことなのよ?ハルがこの前の小テスト、あんな点数とるから。」
「ま、由希ちゃんの顔見に行ってるだけだし関係ないけどー。」
「ちょっとハル…。」
担当教師として聞き流せない発言を注意しようと振り返ると、思っていたよりもずっと近くに、ハルの瞳があった。
「つーかさぁ、由希ちゃんたら、俺に会いたいからってこんな手の込んだことしなくてもいいのにぃ。」
「ち、違うよっ。」
「そんなんしなくても、ちゃんと会いに来てあげるのにさ。」
「だから違うってば…ぁっ…。」
「…こうやって、ちゃんと毎日愛してやるのに。」
そっと囁いて、ハルが耳たぶに噛み付いた。
柔らかく彼の唇が触れただけで、私の中に電気が走るような感覚になる。
いつからこんな風になったんだろう。
私はハルでスイッチが入るようになってしまった。
ずるずるとはまっていきそうになる。
息が少し荒くなる。
………でも。
でも!
「…勉強っしなさい!」
私はハルの身体をぐっと押し返した。
ハルは呆気にとられた顔で私を見ている。
…私だってこのまま引きずられてしまいたい。
だけど、ここで押し切られてしまったら、ハルがダメになってしまう。
「こんなのばっかりじゃ駄目だよっ。ちゃんと真面目にやるときはやらなきゃ。」
ハルは私の言葉に大袈裟にため息をついた。
「由希ちゃんに対しての愛はぁ、いっつもめちゃめちゃマジなんだけどなぁ。」
冗談なのか本気なのか分からない言葉にも、つい赤面してしまう自分が恥ずかしい。
「そ、そういう意味じゃなくて…ハル、飲み込み良いのにもったいないよ。」
「由希ちゃんもー、すげー気持ち良さそうなのになぁ。」
わざとらしく少し大きな声を出す。
「それ、は…。」
否定できない、けど。
私が言葉に詰まると、ハルが探る様な目で私を見た。