恋心に、イエス!-1
「遊びにいこ!」
「いいよ」
「遊園地がいいな!」
「そうしよう」
「ジ、ジェットコースターに吐くまで乗るよ!」
「オーケー、付き合うよ」
「……夜は、ちょう高級レストランでフルコースディナーがいい!」
「じゃあ予約しとくね」
彼は優しいイエス・マン。
「そ、それから、それからね……」
「うん、あとは?」
それがこのごろ、許せない。
「……ばか、ないよ、ばかぁ!!」
「え、なに、なんで!?」
ホームルームの時間よりも三十分以上早く、私は校門をくぐった。グラウンドからはもう野球部のひとたちが練習をしているのか、かきん、かきんと小気味よい音が響いている。
廊下には他のひとの姿はなくって、しんと静まりかえった中を私は教室と反対方向へ歩いた。
そうして廊下の突き当たり、図書室に入る。
「……ふあ……」
ぴしりと整って並ぶ本棚を抜けて、小さな部屋。資料室とプレートが掲げられたそこに入って、私は一度あくびをした。
……うう……ねむい……。
壁一面を本棚に囲まれたこの部屋にはいろいろな古書やらなにやらが眠っている。ほんの少し埃っぽくて薄暗くて、でもひんやりとした空気が気持ちいい。
ここに入り浸るようになってもう一年以上になる。ミヤせんせいとの逢瀬に使うようになったのは……半年とちょっと前から、かなあ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、私の定位置である窓辺のパイプ椅子に座って、開かない窓の桟にもたれ目を閉じた。ミヤせんせいがくるまで、多分あと五分くらい、かな。
私が学校でだいすきなあのひとと二人きりでいられるのは、この朝の時間と、放課後にすこし。たったそれだけ。もちろん二人でおでかけとかはするけれど、あんまり他のひとには見つからないようにこっそりデートをする。べつにそれは嫌なことじゃない。他のひとに言いふらしたいキモチも特にない。だけど、少しだけ、みんなみんなに私と付き合っていることがばれたときミヤせんせいはどうするんだろう、なんて無責任な好奇心があったりもする。
……ああ、もしも私がみんなに言いたいってワガママを言い出したら、ミヤせんせいは……なんて、いうのかな……。
ここまで届くグラウンドの音が頭の隅に遠のいていくのを、ぼんやりと感じていた。