恋心に、イエス!-9
学年がかわって私はいじめられなくなった。それでもミヤせんせいは隣にいてくれた。恩返しをやめて、恋人として。だから私も、泣き虫の生徒じゃなくて恋人としてせんせいの隣にいたいと思った。
なのに、
「……柚木ひなた、サン?」
振り向いた私を待っていた、柔らかい笑顔のおとこのひと。
「みやせん、せ……っ」
資料室の入り口に立つそのひとに、私はさらにこぼれる雫を止められなくなった。
せんせいはぼろぼろ情けなく大泣きの私をみやって、困ったような、でも愛しげな、いつもの、
「ふふ、初めて会ったときみたいだね。相変わらずひなたは泣き虫だ」
「……ミヤせんせ、の、せいだもっ……」
「僕の?」
「ミヤせんせいが、私を甘やかす、からっ」
思い切り顔をしかめてそう言ったら、せんせいは笑って……と思ったら、少し拗ねたように顔をしかめかえしてきた。
「わかってる?僕がひなたに甘いのは、ひなたのせいなんだよ」
「わたし、の?」
「そうだよ」
知らなかったのかとでもいいたげな言葉に、私はまったく身に覚えがなくきょとんとしてしまった。
「僕はひなたがあんまり可愛いから甘やかしたくて仕方ないんだ」
あんまり恥ずかしいことをさらりと言うから、私は涙もひっこんでしまった。顔が熱くなる。は、はずかしい……。
「でもひなたが好きだから、可愛いとこだけじゃなくて色んな顔が見たくなる。泣いてる顔も、笑ってる顔も、怒ってる顔も……だから、ちょっと意地悪もしてしまう」
「ミヤせんせいが私に、いじわる?」
「うん。ちょこちょこね」
「してる??」
「してる。ひなたは気づかないかな……。例えば、ね。わざとひなたを怒らせて、飛び出していったひなたがきっとここに戻ってくるだろうことを見越して、待ってたりする」
「!!」
タイミングよく現れたのは、最初から待ち伏せしてたから……!?
「ひ、ひどい!」
「そう、ひどい。意地悪で卑怯でヒドイ男だよ、僕は」
全く悪びれずににっこり笑う。