恋心に、イエス!-8
黙り込んだ私に合わせるようにミヤせんせいも何も言わなかった。
沈黙が痛くて、怖い。
声を聞いたら、少しでも触れられてしまったら、すぐにここを逃げ出してしまいそうだった。ぐらぐらと揺れる心臓はもう、限界。
そんな私の状況を知ってか知らずか、ミヤせんせいは私に手を伸ばす。
「ひなた……」
ああ、だめ、やだ!
「……っ」
ぱしん、と軽い音がした。……私はミヤせんせいの手を振り払っていた。
「ひなた!」
逃げるように走り出す私を追いかける声。遠ざかるそれを背中で聞きながら、私は資料室を飛び出した。
走って、走って、辛くなって、立ち止まって、でもいてもたってもいられなくて、また走って。
ミヤせんせいはどうしただろう。もう職員室に戻って、仕事をしているかもしれない。最近とっても忙しくしてるのを知ってる。その合間合間に私のための時間を割いてくれていることを、知ってる。なのにわがままいって、困らせたい、なんて、どうして私はこんなに自分勝手になってしまったんだろう。我慢するのは得意だったはずなのに。どうしてミヤせんせいには、甘えてしまうんだろう。
せんせい、だから?
ふとそんなことを思って、振り払うように目を閉じた。
これが本当になってしまったら、私はただの「手のかかる生徒」になってしまうから。
それじゃダメだから。嫌だから。恋人だって、自分でだけでも思ってたいから。
だけど。
「……は……ぁ」
戻ってきたのは資料室。中に入って、お気に入りの場所に椅子を動かしてへたりこんだ。荒くなった息を落ち着けようと思って手を胸に当てて深呼吸をする。と、じわじわと胸からせりあがってくる、苦しいもの。
「ふ……ぅ、う……」
どうして。
どうしてうまくいかないんだろう。
ミヤせんせいと出会ったあの日、せんせいは私に「恩返しをしたい」と言った。私はその言葉をどう受け止めたらいいかわからないまま、ただ拒絶できずにミヤせんせいとこの資料室によくいるようになった。せんせいは何も聞かなかったし、何も言わなかった。ただ少しの間、私が情けなく泣いているその間、黙って隣に座っていてくれた。それがとても嬉しかった。