恋心に、イエス!-6
「ああ、うん。ごめんね、だって黒板が狭いから」
「……消せばいいんじゃないんですか」
「黒板消しがないんだ」
「え、そこにありますよ」
「ああ、ごめんごめん間違えた。黒板消しが『見え』ないんだ」
「…………」
「…………」
その日現代文の授業がなかった私は、いろいろなクラスでそんなやりとりがあったことを全くしらないまま、放課後がやってきた。
私よりも先に資料室に入り古い本を漁っていたらしいミヤせんせいは、私の顔を見て困ったようにくたりと笑った。
「ひなた、怒ってるの?」
「怒ってる」
「困ったな……」
うそだ、困ってない。
ミヤせんせいの本当に困った顔なんて見たことない。いつものこれは、そう、だだっ子をあやすお母さん、みたいだ。愛されてるんだなあっていうのはちゃんとわかる。だけど、でも!
どうしてもこの人を困らせてみたい。
無理難題をふっかけて、ノーと言わせてみたい。
「……ねえ、ミヤせんせ。ここでエッチしよっか」
「え?」
ミヤせんせいは聞き取れなかったのか、きょとんとした表情で聞き返してきた。
私は気付かれないように、小さく息を吸って、吐く。
「ここで。学校の図書室で先生と生徒がエッチするの。してくれたら許してあげる」
「何言ってるの、そんなこと……」
「できない?したくない?ねえ、イエスって言ってくれないの?」
内心、バクバクと騒がしい心臓をおさえつけて笑ってみせる。
これは駆け引き。
わかってる、ここでエッチなんて私にできるわけない。だけど、ミヤせんせいを困らせたい。
「いいでしょ?放課後の図書室なんてほとんど人もいないし大したことじゃないよ。それにすごくスリルがあってきっと楽し……」
「ひなた」
言葉を遮って呼ばれた私の名前に、無意識に体がびくりと震えた。
静かな空気が資料室に戻る。
しーん、ってしてるのに、私の胸の中は余計にバクバクとうるさく暴れる一方だ。
ミヤせんせいはじっと私を見つめていた、と、不意に伸ばされた手が、私の頬をすべる。