雪解け-4
「あたし・・・柊が好きなんだよ」
ギュッと目を瞑った。目の前の耐え切れない現実からの軽い逃走を試みたものの、結局ムダに終わる。2秒後目を開けたそこには、まだ柊が立っていたから。あたしは、大きく息を吸い込んだ。
「毎日一緒にいるごとに好きになった。でも、日がたつごとに、仲良くなるごとに柊が特別になっちゃって。失いたくなくなって。告白してフラれたら、この関係が終わるのが怖くて、ずっと言わんかったのに・・・・」
途切れ、途切れ、あたしは2年間溜まりに溜まった思いを伝える。
「・・・かっての」
柊が何かつぶやいた。シンシン・・・って言葉が1番合うんだろう。そうやって雪が降ってる静寂のなかなのに、うまく聞き取れない。
「?」
あたしは服の裾で涙を拭きながら、顔を上げる。
「・・・・好きな女の前で、泣き顔見せれるかってんだよ。かっこつけたいだろ。やっぱ。好きなやつの前では」
柊の白く透き通る顔がピンクに染まって行くと同時に、あたしの頭は真っ白になっていく。
「なに・・・なんて言った?」
予想外の展開にあたしの頭脳は停止中らしい。カッコ・・・ツケタイ ダロ・・・・
スキナ ヤツノ マエ デハ――――――?
あたしの弱い頭でも分かるように、一単語一単語、意味を噛み締める。
「夏姫のことが好きだって言ってるんです」
柊が最後のトドメを指した。
「ほんと・・に・・・?」
あたしの堪えきれなくなった涙は、とうとう流れ出した。嬉し涙はあったかいんだろうか。この寒さの中も凍りつくこともなく流れ続ける。
「嘘ついてどうすんだって」
柊のイタズラっ子な笑顔。あたししか見れない、特別なやつ。
「だって。信じらんない」
「信じてよ。こんな一緒にいて夏姫みたいないいやつ、好きにならないほうがおかしいって」
柊が傘を持ってない手であたしの腕に触れた。と思ったらそのまま手をあたしの腰にゆっくり回す。それから次に、傘を持ってた手のほうも。
青色の傘が、ゆっくりと雪の上に落ちた。それに続いて、オレンジ色の傘も。
「ちょっと。なにしてんの!」
男の子に触れたことなんて無い。あたし。こんな突然抱きしめられるなんてどうすればいいのか・・・。
「夏姫に触れたくて触れたくて仕方なかった・・・もう許可下り、だろ?」
柊はあたしを優しく抱き包んだ。嫌じゃない。それがあたしが初めに感じたことだった。暖かい、柊の体温を感じる。きっとあたしの顔なんて真っ赤になってるんだろう。熱くてしょうがないよ。
「幸せだ・・・」
あたしがそういうと、柊はあたしをより一層きつく抱きしめた。
いつの間にか雪はやんでいて、灰色の雲もどこかに飛んでいったみたいだ。暖かい日差しがあたしたちを包む。それから、あたしの唇と柊の唇がごく自然にまるで当たり前みたいに重なり合って、そこからやんわりと暖かくなった。
例えるなら、雪解け。
長い長い冬の終わり。頑張って頑張って耐え抜いた後の春。あたしたちはその暖かさを噛み締めて、もう1度キスをした。