官能の城(2)-1
(9)
リチャードは仮面舞踏会が開催され、
皆がそれぞれの快楽に酔いしれているとき、
そっと城を抜け出していました。
この日のために、あらかじめ用意してあった質素な服を着て
まんまと城を一人で抜け出すことに成功しました。
そのとき、
彼の机の中に、教育係のマークス当てに手紙を残しておきました。
「僕が誰よりも愛し、信頼するマークスへ、
僕は城を抜け出す決心をしました、色々とこれからも心配掛けるけれど、
どうか許して下さい、
僕にとっては、今のこの城の中に僕の居場所はないようです、
暫くの間、僕は一人でこの城を出て、色々な世界を見聞きして、
自分を見つめ直してきます。
どうか僕をそっとしておいて下さい、
そして、どうか追わないで下さい、
いつかは、必ず城に戻って、マークスに喜んで貰う人となって、
誰からも愛され尊敬され、
慕われる王様となれるような自分になって戻って来ようと思います。
もし万が一でも僕の身に何かがあった場合には
僕が尊敬するマークスに全てを委ねます、
それから、年老いた父上をくれぐれも頼みます」
リチャードが城を抜け出したのはもう日が陰っている頃でした、
幸いにも、その夜は仮装舞踏会が催されており、
城の警備が手薄になっていたため、
まんまと城から抜け出すことが出来ました。
城から城下に行くのには結構距離があったのですが
若い彼にはそんな苦労はありませんでした。
ただもう城を抜け出したいと思う一心が彼の心をそうさせたのです。
それも怪しまれず、何とか無事に脱出に成功しました。
もうその頃には日がとっぷりと暮れて暗くなっていました。
いつの間にか、
彼は広い野の中の或る薄くらい小屋の前に佇んでいました、
若いとは言え、
やはり林や野原を早足で越え歩いてきた彼も、流石に疲労を感じていました。
どこかで休みたいと思って見つけた建物なのですが、
ここは牛を飼っている牛小屋のようです、
そこは今は誰にも会わずに、
ぐっすり休みたいと思っていた彼には幸運でした。
彼は干し草のうず高く積まれているその小屋の中に忍び込み、
その中に潜り込んで
そのまま吐息を立てて、すやすやと眠りの中に落ちていきました。
小屋の上には丸々とした蒼い月が上空で光り輝いていました。
リチャードはふと目を覚ましました、
牛小屋の間から漏れる朝の光が、彼の凛々しい顔を照らしていたのです。
彼は怪訝な顔をして片目を開けました。