光の風 〈国王篇〉前編-1
あの時も彼を探していた。
二度の襲撃を受けて二人の結界士を失い、国の標である占者も失った。風神を奪われ、次は参謀を奪われようとしている。
この不運は生まれ持ったものなのか、それとも誰かの陰謀か。陰謀だとしたら何故カルサを狙うのか。明らかになった真実の1つ、かつての婚約者がヴィアルアイ側にいる事が分かった。精神的な攻撃が狙いなのだろうか。だとしても、何故カルサなのだろうか。
血を分けた実の弟は火の力を持ってカルサの前に現れた。しかし彼にも、彼の周りにも彼に関する記憶は残されていない。確かなのはカルサの中の記憶と、日向の中の唯一の記憶である名前だけだった。
失われたもの、失いつつあるものが多い。現世でカルサに与えられたものは、新しい身体と光の力、そして新しい仲間だった。
もう、何も失うつもりはない。
「サルスを見なかったか?」
カルサは廊下ですれ違う際、脇に避け頭を下げたままの女官に声をかけた。カルサは今、自分の仕事を行なおうとしている。
「先程、民の部屋に向かわれました。」
「民の部屋、か。」
あそこにはまだ避難してきていた民が居たはずだと頭の中で思い出す。カルサは礼を言うと民の部屋に足を向けた。自然と歩みが早くなる。
会って何を言おう、何から話せばいいのだろう。そんな余計なことも一切考えずに歩いていく。
あの時も彼を探していた。
なかなか探しても見つからないので声を上げ、手っ取り早くサルスを見つけようとした。あいにくと今はそんな気にはなれない。
あの頃が懐かしいと目を細めてしまうほど時は経ってはいないのに。そう感じてしまうのは短い期間で色々な事が起きたからなのだろうか。
ふと視線を外へ向けた。窓の向こう、小さな中庭を挾んだ向こう側には東の塔と呼ばれた建物が見える。先日の襲撃の時に爆破され、分厚い壁を突き破った大きな穴が痛々しい傷跡として残っていた。
あそこは限られたものしか知らない隠された場所、結界石が置かれていた場所だった。結界石も破壊され今はもう瓦礫の中に埋もれている。
カルサの顔が厳しくなる。あそこにはいくつか血痕が残されており、誰かが怪我をしたことは明白だった。誰かとはおそらく、そう考えると更に眉間の皺が深くなる。
それでもカルサは足を止めず、サルスを目指して進み続けた。
民の部屋が近付きカルサの存在に気付いた兵士がカルサへ駆け寄ってきた。
「陛下!」
「エプレットか。」
声と雰囲気で彼が分かった。少し離れた場所で止まると一礼し、脇に避ける。カルサは足を止める事無くエプレットに問いかけた。