アフターダーク-3
***
憂鬱な生活を続けて数日。
この日もいつものように仕事を終え、鞄を高校生のようにリュックの如く背負って家路に向かっていた。
「ちょっと、あれ!」
「やだ、うそー!」
「おい大丈夫なのか?!」
騒々と周りが騒がしい。
皆が一様に見上げる先を僕も見上げてみる。
「…あ!」
高層ビルの窓拭きをする時等に使う、上から吊されたゴンドラ。
そのゴンドラが、壊れて今にも落下しそうになっている。
最悪にもそこには人が1人取り残されたまま。
「警察に通報しないと!」
「いや、消防じゃないか?」
戸惑う人や野次馬の人々でビル周辺は埋め尽くされている。
…ドクン。
いや、僕には無理だ。助けられない。
…ドクン。
こんなに人が沢山いるのに、こんな姿見せられない。
…ドクン。
無理だ無理だ!
僕には出来っこない。
出来るはず…
「キャー!もう落ちちゃうわよ!」
出来るはず…
…ドクン。
…なくても、何食わぬ顔では終わりたくない!
ドクン。
気が付けば走り出していた僕の足。
鞄を放り捨てて、ビルに向かってひたすら走る。
スーツを突き破って翼が大きく羽ばたいた。
空を切って身体が宙に浮く。
その身体はどんどん上昇して、一直線にゴンドラへと向かった。
野次馬の声は下から聞こえない。
信じられない、と言うかのように僕を見上げて、無言で始終を見守っている。
ゴンドラに取り残された人をがっちりと抱き込み、そのビルの屋上に向かう。
「あっ…ありが…とう…」
屋上に降り立つと、驚きの表情と共に発せられた感謝の言葉。
その言葉に少しだけ笑みを浮かべて、ゆっくりと背を向けた。