アフターダーク-2
***
翌日。
「……マジかよ…」
洗面台で、僕は盛大にうなだれた。
翼が大きくなっている。
これはもう、悠に1メートル以上ある。
今日は仕事が休みで良かった。
「今日1日、今後の事を考えよう…」
1日で大きく育った僕の翼。
こんなに大きいと、生活にも支障をきたすようになってきた。
物にはすぐぶつかるし、服は翼がでかくて着れないし、ドアをすんなり通れない。
どうして僕がこんな目に…
何の打開策も浮かばぬまま次の日を迎えたが、翼は小さくなる兆しも見受けられない。
仕方なく背中全体に翼を巻き付け、鞄で背中を隠しながら会社へと向かった。
向かう途中途中に、様々なものに視線がいく。
紙の翼を付けて、天使に扮した幼稚園児。
リュックみたいに小さな作物の翼を背負って道にたむろする、ゴシック系というかビジュアル系な感じの女の子達。
そして、朝からサーフィンを楽しむ青年達。
顕になっている背中には肩甲骨があるだけで、そこに翼は付いていない。
…当たり前だが。
背中を鞄で隠している辺り結構挙動不審だと思うが、会社に付くと、僕の行動は更に挙動不審に磨きを掛ける。
エレベーターの中でも壁ぎわから離れないし、デスクに座ってる時だって他の人に背中なんて見せれないから、後ろを人が通るたびくるくると椅子ごと回転。
仕事帰りに誘われたカラオケだって、どんなに暑くてもスーツの上着すら脱げない。
僕の好きな未来の破片が歌われたって、暑さと緊張ではしゃぐ事もままならない。
翼のせいで夜だって寝苦しい。
マンションの屋上で1人黄昏ながら考えた。
いつまでこんな生活が続くのか。
こんなんじゃ僕は何も出来ない。
出来やしない。
…だからと言って、翼を堂々と出して生活する勇気もない。
周りの目が気になるし、きっといい見せ物扱いだ。
綺麗な翼が憎い。
綺麗な分だけ、尚憎い。