走馬灯-27
「…先月、同じ会社の会社員の死体が揃って山の中で発見された事件で、新たな動きがありました。警視庁は当初、2人の死亡に関連性はないと発表していましたが、今朝は一転して、車で崖から転落した田宮容疑者が、もう一方の会社員の小林勝也さんを殺害後に、ハンドル操作を誤り転落したと断定、田宮容疑者を殺人罪で容疑者死亡のまま書類送検しました。では現場から木島記者、お願いします。」
「はい、警視庁前の木島です。A市内の山中で発見された会社員2人の遺体の関連性について、警視庁は当初から全く正反対とも言える、新たな見解を公式発表しました。」
「本日、会社員、田宮清二を会社役員小林勝也さんの殺害容疑で容疑者死亡のまま、書類送検しました。」
「警視庁の公式発表を再現VTRでまとめましたのでご覧ください。」
『田宮容疑者は仕事の帰りに、行きつけのスナックで飲んでいた小林さんを自分の車に乗せた。この場所と決めていたのか、A市内の山中の見晴台で車を停めた。小林さんが一服し終わったあと、田宮容疑者は刃渡り10cmのナイフを右の腰骨から脇腹にかけてえぐり上げるように突き刺した。』
『命乞いをする小林さんに命の保証をするなどと脅し、遺言らしき言葉を携帯のメモに残させた。その後、弱った小林さんにナイフを握らせ、指紋を消させた田宮容疑者は小林さん仰向けに寝かせ、腹に深々とナイフを突き立たせた。小林さんが絶命すると田宮容疑者は自分にかけた発信履歴を消し、何故か自筆で小林さんの名を語り遺書に見せかけた文章を書いた。』
『田宮容疑者は車で逃走を始めた矢先、峠を抜ける最後のカーブで車ごと転落し、死亡。死因は脳挫傷だった。』
「そもそも、奇妙な点がいくつかありましたよね?木島さん。」
「はい。田宮容疑者の死因は脳挫傷であるのにも関わらず、服にはたくさんの血痕が残っていました。中には被害者である小林さんの手形と一致する血痕が胸元あたりにありました。また、小林さんが普段は吸っていなかったタバコ、これを普段から吸っている田宮容疑者の銘柄と一致したこと、自殺であれば、はじめに背中には刺すはずがないということ、遺書の字体が田宮容疑者と一致していたということが挙げられます。また田宮容疑者の携帯には着信履歴があるものの、小林さんの携帯には発信履歴がなかったということが挙げられます。
「ありがとうございました。また新しい情報が入り次第、お願いします。」
「それにしても何故、田宮容疑者は遺書を自筆で書いたのでしょうか?文面はもっともらしく『私は人生に疲れたので自らの命を断ちます。小林』なんて書いてあります。しかし、本人が書いても仕方がないと思いますが。」
「恐らく精神が錯乱していて自分で書いてしまったのでしょうね。遺言を言わせただけでは不十分だと考えたのではないでしょうか?警視庁もはじめは、遺言を重要視していましたけど、次々に浮かび上がる証拠から見解を変えざるを得なかったのでしょう。」
「田宮容疑者はどんな風景を見て、どんなことを思い、転落していったのでしょうか。」
「カーブはとてもゆるやかです。今までの人生を振り返って、考え事をしていたのではないでしょうか。恐らく最後は死ぬ前に誰もが見るという走馬灯でしょうか。でも、まぁ、あくまで迷信ですからね。」
「そうですね。それでは次のニュースです。」