『Summer Night's Dream』その1-8
「そんな訳で、お前は僕にデッカい借りがあるという話だけど……」
陽介は意志を込めた目で孝文を見据え、
「どうする?」
とりあえず、道連れを1人引き込むことに成功した。
孝文よ、世の中そんなに甘くはないぞ。
「本庄、さくらぁ?」
放課後、陽介は約束通り孝文を連れ出した。
他にも何人か声を掛けたのだが、水嶋の名前を出した途端、手のひらを返したようにそそくさと逃げ帰ってしまったのだ。
部長、アンタ嫌われてます。
そして元はといえば、このバカが勝手にグアムで豪遊してきたせいで陽介が二人分働くことになってしまったのだ。
きちんと筋を通してもらおうじゃないか。
「誰だそりゃ。お気に入りのAV女優か?貸せよコノヤロー」
経緯を話していたら、いきなり孝文がそんなことを言って怒り出した。自分だって一文字違えば大変なことになってるくせに。
「そんな話じゃないって。いいか、この学校にそんな子がいたかどうか洗い出すんだ。お前の得意分野だろう?」
ちくしょう、と孝文が呻き声を上げた。
「俺が取材に行ってりゃよかったんだ。そうすりゃあ俺がさくらちゃんに」
ぶつぶつと恨み節をつぶやき続けている。なぜかコイツの頭の中では、陽介が一夏の思い出を夜の学校で達成したことに脳内変換されてるらしい。
どんなトンデモ設定だ、そのAVは。
「とにかく、これは部長命令だからな。今日中にやっとかないと懲罰もんだぞ」
「……ってもなぁ」
孝文が途方に暮れた眼差しを校舎の窓に向けた。
どうやら、知らないらしい。
だが、それならそれでちょいとばかしおかしな話になる。
孝文の情報ツールをもってすれば、校内のいたるところまで、誰と誰が付き合ってるとかアイツんちの家はヤバい商売をやってるとか日本史の坂本が近ごろ発毛に目覚めたとかまで、みっちり完全網羅の人間ネットワークだった。