『Summer Night's Dream』その1-5
「…というわけで、今から君を食べることにしたから、とりあえず手を後ろに組んでそこに座って」
…これではまるで痴漢じゃないか。喉から出掛かった言葉を飲み込んで、陽介は代わりに
「何言ってんの、幽霊は君のほうでしょ?」
「わたし?」
少女がおぼろげに自分を指差した。
「まさか。私、自分んちからここに来たのよ」
「僕にだって家くらいある。母さんも、父さんも、じいちゃんも、みんなそこに住んでる。素麺はさすがにもう飽きたけど、明日は週末だからカレーが出るかもしれない」
つまり、何がいいたいのかと言うと、空腹の限界だった。
「僕はこの学校の生徒だよ。ここには取材で来たんだ」
そう言って、陽介は首から提げていたデジカメを少女に見せた。少女は手に取ってまじまじとそれを見つめ、
「これ、カメラなの?」
「そうだよ。中にいくつかここの写真が載ってるだろ?僕の入ってる部活で、よく使うんだ」
陽介の持ってきたカメラには、横にでっかく『超研』と書かれたテプラが貼ってある。
落ち武者のいる公園も、赤ん坊の夜泣き声が聞こえる駐車場もちゃんと入っている。中には、病院の女子トイレを撮った写真なんかも紛れ込んでるから、それは見ないでほしい。
「君はどうしてここに?」
パチリ、とシャッターの切る音がした。
「アナタと似たようなものよ」
カメラから視線を外して、少女がにこりと笑った。
「目に見えないものを、探しにきたの」
少女は自分のことを、本庄さくらと名乗った。
どこかで聞いたことがあるような気がするのは、たぶん、気のせいだろう。