『Summer Night's Dream』その1-3
「だが、よく見ろ。ピントの合ってないのは窓際のカーテンの隙間だけだ。他は鮮明に映っているのに、だ」
手にもってよくよく眺めてみれば、確かに、水嶋の言うとおりだった。
黒のカーテンに光が反射してるだけのように見えなくもないが。
「てか、コレうちの学校じゃないスか。中庭から撮ったように見えるけど……」
「そうだ。写真自体はそんなに古くはない。先日、俺の所にとある人物からタレコミがあってな。一緒に貰ったのがその写真というわけだ」
危なっかしい目つきをギラギラさせながら、水嶋は興奮気味に唸った。
黙ってりゃそれなりに見れる顔なのに、この手の話題になると水嶋は学校でも超一級の危険指定人物になる。
三度の飯よりオカルトが好きらしい。
「毎度疑問に思うんですけど、とある情報提供者って一体誰なんです?」
「それは言えん。プライバシーの保護がある」
なぜそこだけはいつも頑なに拒むのだろう。もしかしたらこの写真は部長が撮ったんじゃないのか。全ては自作自演で、秘密主義がカッコいいとかそんなくだらない理由を隠してるのも、この人ならあり得る。
だけど、この写真はたぶん本物、なのかどうかは別にして、恐らく実際に撮られたものだ。今の時代、心霊写真なんてパソコンでいくらでも作れるけど、掘り出したネタに細工をするような真似を水嶋は嫌う。オカルトに対しては常に真摯でいたいらしい。何のプライドか分からないけど。
「さらに、付け加えるならば、ここに映っているのはあの旧校舎だ」
水嶋が言うあのとは、陽介にも多少聞き覚えはある。
陽介の祖父がまだガキんちょだった頃から旧校舎は古ぼけた姿のままあそこに建っていたらしい。
それから一度も改築されることもないまま今に至るのだから、色んな噂が色めき立つ。
十年ほど前に加速する都市開発の一環で、隣町との合併が決まった時、この学校も一緒に統合されることになって、その時にできたのが今の新校舎だ。
それまで何千人もの生徒を見守ってきた古い学び舎はあっさり取り壊されることになった。
それを受け入れた当時の市長が、その学校の第一期の卒業生だというのも皮肉な話だ。
だがしかし、不思議なことに、陽介が池田高校に入学したこの年になっても、いまだにその計画が実施されることはなかった。
工事の関係者たちの間で、次々と不幸が起こったのだ。
身内が車にはねられて、意識不明の大重体になったり、取り壊しの前日になって観測史上類を見ない大雨に見舞われたり、いざ当日になると重機がことごとく原因不明の故障で動かなくなってしまったり。
そんなこんなであらゆる障害をはねのけ、旧校舎の解体工事は頓挫されたまま放置状態になっている。
という噂を祖父から聞いたことがある。
祖父は御年七十四歳で、数年前からボケ始め趣味の観葉植物に意味もなく話しかけるようになった。
信憑性は、あまりない。