背徳の時間〔とき〕B 後編-5
「私、てきぱき仕事できるタイプじゃないから、営業は向いてないなぁって…。今は総務でマイペースに決められた仕事こなして、それなりに自分の居場所見つけた感じです。」
和気はこの時、見た目の幼くおっとりとした印象とは異なり、自分の主張をまっすぐ他人に伝えることの出来る真由花に好感を持った。
『そうそう、客先で映画の招待券2枚貰ってさぁ。真由花ちゃん、彼いるって丸山から聞いたけど。これあげるから、彼と行きなよ。』
和気はそう言うと、封筒に入ったチケットを真由花に差し出した。
「実はあのあと彼とは喧嘩したままで、もうダメかなって…。よかったら2人で行きませんか?」
真由花は自分でも驚くほど大胆な言葉を発してしまっていた。
言ってしまったあと、恥ずかしさからうつむいた真由花に、予想外の返事が返ってきた。
『それじゃ、今から行く?』
「えっ?仕事大丈夫なんですか?」
『まぁ、余り大丈夫とは言えないけど、可愛い子の誘いは断れない。』
和気はそう言って笑うと、大事な書類だけ置いてくると言って、一度社内に消えた。
そのあとは2人で映画を観て食事をした。
2人が会話らしい会話をするのは今日が初めてだが、好きな本の話や、お互いの子供の頃の話などで、驚くほど会話が弾み、真由花は時間が経つのも忘れるほどだった。
『おっと、もうこんな時間だね。危ないから家の近くまで送ってくよ。』
和気はそう言うと、スマートに会計を済ませ、外に出てタクシーを拾った。
和気と過ごした時間はあっという間で、すでに夜の10時を回っていた。