Dear.Proposal-2
「飛べてねーのは俺じゃなくて志穂の方だったよ」
「え?あー…まぁ確かに…」
晃司に言われて、再度今年の夏を思い返す。
夏前半辺りは一緒に飛んで、人を掻き分けて前へ前へと奮戦していたのに、後半は飛ぶ事はおろかスタンディングエリアにすら入っていない。
少しの疑問が頭の中に残ったが、そんなに深くは考えなかった。多分夏バテでもしていたんだろう、と。
「もう進路に向けて一直線だな」
「遅くね?」
「あ?!お前はどうすんのか決まったのか?!」
「はぁ?入学当初っから大学院進むって言ってんだろが!!」
心理カウンセラーと言っても色々あり、俺が目指しているのはその中でも一番メジャーであろう、臨床心理士。
国内最高峰の心理学資格であり、取得は極めて困難。とりあえず指定大学院を修了しない事には資格の受験すら受ける事が出来ない。
その事は大学入学時から晃司には伝えていた筈なのに、何も覚えていないのか。
「…んで、お前の進路はどこに一直線すんだよ?」
「どっかに就職する一直線だ!!」
「分岐点多すぎだろ」
♪〜
「うおっ!やべっ!!」
突然携帯が鳴り、シンと静まり返っていた図書室内に綺麗に反響した。
そう、そこは天下の図書室。あちらこちらから『何携帯鳴らしてんだ』とでも言いたげな冷たい視線がチクチク痛い。
アウェーな空気をひしひしと感じながら、こそっと携帯を開いて直ぐ様マナーモード設定。
どうやら志穂からメールが来たみたいだ。
《今どこいる?時間ある?》
「…?」
いつもの志穂らしからぬ簡潔なメール文。
何かあったのか、と思いながら返信文を打ち込む。
《今大学の図書室いるよ。時間も大丈夫だけど、どした??》
「賢悟、メール?誰から?」
「志穂から。なんかちょっと、いつもと違うっぽい」
「?ふーん?」
ブルブルブルッ
掌に振動が伝わる。
《話があるから、駅前のファミレスで待ってる》
有無を言わせぬ文面に、疑問は募るばかり。
「ちょっくら俺行くけど、お前は?」
「んー、もうちょいここいる」
「そっ。じゃあな、またいつか」
「明日だろ明日!!」
『静かにして下さい!!』
「「…すんません」」
***
大学から徒歩で約15分の所にある駅の、道路を挟んで真ん前にあるファミリーレストラン。
その店内の最奥窓際に志穂はいた。
「ごめん、お待たせ…あれ?小百合もいたのか」
「何よ、いちゃ悪かった?」
「いや、んな事ないけど…」
何だかピリピリした空気に若干心臓が震える。
テーブルを挟み2人の前に座った。どうやら、俺が来るという事で席を空けて待っていたようだ。
俺が席に着くと、図ったように店員がお冷やのグラスを運んできた。それを目の前にコトンと置かれ、反射的にそれを手に取り口に運ぶ。
「…で、話って?」
口を潤してから、気になっていた本題に入る。
このファミレスに入ってからずっと、志穂は俯いていて俺と目を合わせようとしない。
「……」
それどころか、話しだす素振りすら見えてこない。
どうしたんだという視線を小百合に向ければ、隣に座っていた小百合が肘で志穂をぐいっと押した。
「志穂っ…」
「……」
志穂が小百合をちらりと見てから、上目遣いで俺を見る。
「…どうした?」
今にも泣きそうな志穂の瞳。何があったというのだろうか。