小さなキセキ-7
「大人の女性にいきなり“ちゃん”なんて失礼でしたね。私は黒崎と言います。」
彼は、きちんと私のほうに向き直り軽く頭をさげる。
その動作は、大人が大人にするようなスマートな挨拶といった雰囲気で、自然な動作だった。
「あ!いえっ、そういうんじゃなくて、ただちょっと気恥ずかしくて・・・すみません。」
一方私は、子供の頃にかえったような気持ちになっていたせいで、慌てて大人の私を引っ張り出し、頭を下げたが、どうもぎこちなくなってしまった。
そんな様子を見て、黒崎さんは優しい笑顔で笑う。
なんだか、子供っぽい私を笑われているようで恥ずかしかったけれど、不思議と嫌ではない。
はじめて会ったはずなのに、なんだかそんな気がしない。
そんな気にさせるのは、やはり同じ名前の“まいちゃん”の話を聞いたからか、それとも、黒崎さんの笑い方が、私の記憶の中のあの人みたいに優しいからか・・・どちらにしても、この場所が引き合わせてくれた不思議な縁を感じずにはいられなかった。
そんなふうに考えていると、突然、ポケットの中で携帯がけたたましく騒ぎ出した。
それをきっかけに、私は大事なことを思い出すことになる。
(愛菜とはぐれてたんだった!)
私は、慌てて「すみません」と黒崎さんに詫び、電話に出た。
やはり愛菜からだ。
「もしもし。」
「あ、よかったぁ。麻衣ちゃん居なくなっちゃったから探したんだよ〜。」
「ゴメンね〜!今どこ?」
愛菜は、私が今いる池とは反対側の本堂の外れにある小さな祠のあたりにいるらしい。
そこで待ち合わせることにして、手短に電話を切った。
「お連れの方?」
黒崎さんは私の話す内容で大体の察しがついたようだ。
首をかしげて私の様子を伺っている。
「ええ、一緒に来ていた友人が探してるみたいで・・・。」
「そうでしたか。引き止めてしまってすみませんでした。」
もとはと言えば、私から声をかけたのだから、黒崎さんが謝ることなどひとつもない。
なのに黒崎さんはすまなそうに肩をすくめた。
「そんな!お話できて楽しかったです。」
それから私達は、互いに挨拶を交わしその場で別れた。
その時は、後にまた再会することになろうとは思ってもいなかっただろう。
私は愛菜のもとへ急いだ。