小さなキセキ-6
「よくご存知なんですね。このあたりの方ですか?」
「いいえ、仕事でこちらに。さっき着いたばかりなんです。」
だからこんな浮いた格好でここに来てしまって。と付け足し、彼はちょっとおどけて見せた。
私はついその仕草に笑ってしまい、彼も一緒に可笑しそうに笑う。
「昔、子供の頃にも来たことがあって、その時にここで会った子に教わったんです。」
そういうと、彼はまた池の水面へと視線を移す。
納得のいった私も、同じように池のほうを見ると、ちょうど一匹の蛙が水面に広がる睡蓮の葉から、水の中に飛び込むところだった。
「まいちゃん・・・っていったかな。」
「え?」
急に私の名前を呼ばれたことに驚いて、今度は私が目を丸くして彼のほうを見た。
「その子の名前です。確か、まいちゃん。」
彼はそのまま池を見つめながら、懐かしそうに目を細める。
「・・・あの、私も麻衣っていうんです。」
「・・・え?」
思わぬ私の告白に、彼はまた驚いて私のほうを見た。
「偶然ですね。」
そんな彼に、私はにっこりと笑って見せた。
彼は、見たところ私と同年代だろう。
私は昔からここによく来ていたし、あの頃は同じように遊び場を求めて集まってきた子供同士、知らない子でもすぐに仲良くなって一緒に遊んだりしていた。
彼の言う“まいちゃん”は私かどうかは分からない。
けど、もしかしたら、子供だった頃の私と彼はここで会っていたのかもしれない。
そう考えると、何だか久しぶりにワクワクした。
こんな感覚はもう、だいぶ感じたことはなかったような気がする。
何て素敵な偶然だろう。
「ええ、驚きましたよ。私はよほど“まいちゃん”と縁があるんですね。」
「この年で“ちゃん”は恥ずかしいですけどね。」
愛菜と私は、昔からのクセで未だに“ちゃん”付けで呼んでいるが、大人になってから“まいちゃん”なんて呼ばれることはほとんど無くなっていたから、妙にその呼び方がくすぐったかった。