小さなキセキ-5
「なんだ、あのお姉ちゃんの友達かい?あんたも一緒に踊ってきたらいいのに。」
その様子を見ていた、すぐ横に立っている見ず知らずのおじいさんが、ニコニコと私に声をかけてきた。
このあたりは田舎なこともあり、知らない者同士で声をかけあうことはそんなに珍しくはない。
しかし、私は曖昧に笑顔をむけて「踊り方を忘れてしまって」と言い訳をし、なんとなくその場から離れた。
(愛菜ちゃんには後で携帯に連絡入れれば大丈夫かな。)
この人混みの中では、一度はぐれたらお互いを見つけるのはそう簡単ではなさそうだ。
私は、はぐれついでにもう少し境内を散策してみたくなった。
本堂のまわりには踊りの輪と、その外側に見物の輪ができていて、人でごった返している。
そんな中、私の視線はひとりの男性に引き付けられた。
人混みの外れ、本堂脇の小さな池のほとりに、この場には不釣り合いなスーツ姿。
スラリとした長身のその人にはスーツがよく似合っていて、着慣れている印象だ。
そんな彼は、踊りの輪に背をむけて、池を眺めている。
(何してるんだろう?)
私はなぜかとても気になってしまった。
もちろん彼は私の知っている人ではない。それに私は普段、知らない男性に声をかけたりなどしたことはない。
それなのに、気がついたら私は、池のほとりまで歩みを進めていた。
「あの・・・何か珍しいものでもいました?」
ずっと水面を見つめている彼に、私は恐る恐る声をかける。
「え?・・・あぁ、違うんですよ。」
彼は、突然声をかけられて驚いたのだろう、目を丸くして顔をあげ、私のほうを見た。
それからすぐ、柔らかな笑顔を浮かべて、少し照れたようにして口を開く。
「この池には神様が住んでいるんだそうですね。その神様は願い事を叶えてくれたり、その人の罪を消してくれる神様だとか。そんなことを思い出していたんです。」
今度は私が驚いた。
彼の印象から、地元の人ではないだろうと思っていたのに、地元でも一部の人しか知らないような、この池にまつわるジンクスを知っていたからだ。