背徳の時間〔とき〕@-8
真由花はおもむろに身体を起こしローブを羽織ると、ドレッサーの上から純銀製のジュエリーケースを手に取った。
純銀製のケースを開け、中から和気のメタルの腕時計を取り出した。
和気は真由花の手から時計を受け取り右腕にはめた。
和気の時計を預かり、別れる時に返す習慣は、付き合い当初から続いている。
せめて別れの時は、真由花の意志で送り出したい…。
和気の事情に対抗する、真由花のささやかな抵抗。
部屋のドアを出ていく和気が、『おやすみ。』と真由花に言った。
『さよなら。』ではないのが、せめてもの救い。
でもその憎いほどの優しさが、真由花を追い詰めていく。
真由花は和気を送り出した一人の部屋の中で、和気と過ごした余韻を探していた。
終わり