Double Lover(2)-1
―カシャッ!カシャッ!
「じゃあ次は表情変えてみようか!」
「はい!皆目線こっち向けてー」
カシャッ!カシャッ!
「うーん。ちょっと一時間休憩入れまーす!」
「宝くん、どうしたの?なんか今日表情が良くないよー?なにか考え事?」
カメラマンが心配そうに宝に尋ねる。
『あ、すんません。ちょっと寝不足で。大丈夫です。』
「そか。休憩終わったら頑張ってよー。」
『はい…。』
俺は喫煙所で一人、タバコに火をつけて思い出していた。
『じゃあここまで何があって、どうして来たんだ?』
宝は最初に会った美烏とは、正反対の性格の女に問い掛けた。
「私は美烏の視点から見てるけど、詳しくはわからない。思考や会話とかはわからないの。わかるのは途切れ途切れに覚えている映像だけ。あ、でもね…」
宝は美久の言葉を待つ。
「なんか切羽詰まってた感じ?あー違うかな。急いでる感じだった。美烏の部屋で鞄に荷物いっぱい詰め込んでて。必要最低限の物だけ詰め込んでたっぽい。」
確かに美烏の荷物の中には財布や多少の着替えなどの、最低限必要なものが入っているようであった。
『えっと…美久…?は家がどこにあるとか、そういう身元とかがわかる記憶はないのか?』
「うん。ないわ。美烏の中から私は生まれたようなものだし、普段は美烏の生活の中で美烏として生きてるわけだから。美烏がはっきり覚えていない限り、私も覚えてはいない。途切れ途切れの記憶はただ美烏を通してたまたま見えただけで、私自体が見てるということじゃないから。」
俺が黙っていると、美久は付け足すように言った。
「あと、美烏がいつ美久になるのかとかも決まった一定の時間ってわけじゃないし、この人格の入れ替えはコントロールできないわ。」
『じゃあ身元や住んでるところも、簡単にはわからないのかよ。てかこれからどうすんの?寝るとこだってないわけだし、仕事だって…』
「まあ、どうにかなるっしょ。」
何このポジティブな子…。
「それにあんたもいるし?美烏みたいな子ほっとけないでしょ?」
美久の笑顔に、宝は寒気を感じた。