憂と聖と過去と未来 epilogue-1
目覚ましの音で飛び起きた。
「……ん」
何かの夢を見ていたらしく、まだはっきりと頭が覚醒していない。
辺りを見回す。
隣では口をぽっかりと開けて眠っている憂。
そんな憂の頬を撫でて、もう一度横になる。
「……っと」
いかんいかん。
あれだけ朝に弱かった俺だが、ある程度は克服した。
というか、今では憂のほうがすっかり寝ぼすけになっている始末。
俺とは違って生活リズムがバラバラだからしょうがないのかもしれないが。
夜勤明けの憂を起こすのも悪いので、俺はそのままできるだけ音を立てずに出勤の準備を始めた。
憂と仲直り、いや、交際を始めて五年。
この五年間、俺達の間には一切のトラブルもなかった。
そりゃ小さな喧嘩の一つや二つはあったが、昔のような事もなく、至って平穏だった。
昔のこと…
憂とすれ違っていたときのこと…
今ではそんなもの、なかったことのように感じる。
ある程度準備をして、一人で朝食をとる。
トーストにしたいが時間がなく、食パンを柔らかいまま食べる。
脇には当然牛乳。
小さい頃から始まって、こうやって一緒に暮らすようになっても未だに憂には気持ち悪がられるが、俺の食生活は変わらない。
ふとテレビの横の棚に目がいく。
そこには俺と憂の写真が無数に飾られている。
憂が実家から持ってきたらしい小さい頃や入学式なんかの昔の写真もあれば、付き合ってからの写真も多い。
どの写真も二人は笑顔だ。
いつか俺の願ったとおり、今、俺と憂は一緒に暮らしている。
いろいろな場所にだって行った。
本当に幸せな日々を過ごしている。
後は、ひとつだけ。
「やばい」
ぼーっと写真を眺めていたのだが、気付けばあまりに時間が経っていた。
慌てて準備を終えて寝室に向かい、まだ寝息を立てている憂に小さく言った。
「憂、行ってきます」
そうして今日も家を出る。
今日は暑くなりそうだ。
俺達は今を、未来を生きている。