由里子と先生3-3
もちろん相手チームの選手は危険行為で反則を取られ、レッドカードで一発退場させられた。
そして試合はそのまま動かず、2対1で由里子の高校が勝利をおさめ、県大会出場への切符を手に入れた。
一方、救急搬送された神木の怪我の状態は、想像以上に悪く、診断の結果は、足首を捻ったことによるアキレス腱の断裂だった。
そしてそのまま緊急手術を受けることとなった。
由里子は、試合後に駆け付けた監督やチームメイト達と一緒に、神木の手術が終わるのを病院の待合室で待っていた。
手術は2時間ほどで終わり、執刀医からは無事成功と告げられたが、術後は2ヵ月間の安静が必要とのことで、神木はこの先長い入院生活をしいられた。
県大会出場を決めたものの、神木がその試合に出ることは絶望的だった。
神木の落胆ぶりは誰の目から見ても明らかで、精神的にも荒れ、仲間達でさえ寄せ付けなくなった。
そして担当看護士の話によると、食事も採らず病院でもふさぎ込む日々が続いていたようだ。
それまでの、周囲の人達を引き付けるような、オーラを放つ神木の魅力は、入院以来消えていた。
神木にとって、県大会出場はサッカーを始めた小学生の頃からの夢だった。
18才の今に至るまで、他の趣味や女の子との恋愛よりもサッカーを優先し、夢の実現のためだけに突っ走ってきたと言ってもよい。
その夢が、半分は自分の手によって現実になろうとしていた矢先、転倒事故にみまわれた。
神木にとってはその瞬間、自分の未来が無残にも弾け散ったような気がした。
由里子は少しでも神木を元気づけたくて、時間が許すかぎり病院に通った。
そして伏し目がちな神木に、由里子の方から積極的に話し掛け、少しでも神木が笑ってくれるよう話題を心がけた。
神木も毎日のように自分を見舞ってくれる、可愛くけなげな後輩に、除々に魅かれていった。
今までサッカー一筋で過ごしてきた神木だったが、由里子が病院を訪れるごとに、愛しさが募るようになり、由里子の都合でしばらく会えない日が続くと、締め付けられるような胸の痛みを覚えた。
この頃の神木は由里子を喜ばせるために、自分の怪我と向き合う強さを身につけ始めていた。
その結果、神木は驚異的な回復力を見せ、当初2ヵ月間の予定の入院生活が、実際にはひと月余りで退院することができる迄になり、主治医や回りの人達を驚かせた。