……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-9
――暑い。
日が暮れて間もない時間帯、風が吹いても生ぬるく不快。なのに抱き合う格好を強いられる。
――でも、こうしてたい。
制服の衣擦れが気になるものの、半そでからこぼれる汗でしっとりする二の腕が触れると、セックスとは違う興奮を覚える。
「ふぅ、ノリチン汗臭いや……」
上体を起こす理恵は紀夫を見下ろしながらため息をつく。
「なんだよ、理恵さんだって……」
「理恵だって?」
「いい匂いだった」
汗と趣味の悪い香水を嗅がされておきながらも下半身はしっかり女に反応しており、まだ彼女を抱いていたい気持ちがあった。
「そう? 理恵はあんまり好きじゃないけど……ノリチンは好きなの?」
「いや、理恵さんのが……」
「なにそれ? 理恵が臭うってこと?」
「いや、その悪い意味じゃなくて、すごく、そうだ! フェロモンってやつじゃない?」
「フェロモン? ふ〜ん、まあいいや」
腑に落ちないといった様子で首を傾げる理恵だったが、もう気が済んだらしく隣にこしを下ろす。
飲みかけのジュースを変わりばんこに飲むこと数回、話すこともなくただ時間を無為に過ごす。
「あ、あのさあ、理恵さんは合宿参加しないの?」
最初に沈黙に耐えられなかったのは紀夫のほう。彼は唯一の共通の話題である部活のことを切り出した。
「うん。だってあたしはそこまで陸上する気ないもん」
「そうなんだ」
「それにそのほうがノリチンと遊べるじゃん?」
――これも遊んでることになるんだ。
「でも、里美さん大丈夫かな。紅葉先輩参加してたし、あ、そういえば日吉さんは何で参加したくないんだろ」
「そうだね。紅葉先輩変だからね〜。ただ、綾は多分アレを気にしてるのかな?」
「アレ?」
「ねえ、ノリチン?」
理恵に向き直ると彼女のにっこりとした笑顔がずいと前に出る。それこそキスができる距離であり、ピンクのリップがきらめくそれは異常に魅力的であり、南国のフルーツを剥き身にしたような錯覚を覚える。
今の雰囲気ならキスまでいける。そしたら、そのまま?
「うん……? ぎゃぅ!」
続く刺激は快感ではなく鋭い痛み。露出した肌に思い切り理恵の爪が食い込んでいた。