……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-6
「やっほー里美ちゃん。今日もオッパイ大きくなった?」
「きゃあ!」
背後から両の乳房を持ち上げられる。犯人は例によって例のごとくイジワルな先輩だが……。
「理恵ちゃんのお尻、張りがあって羨ましいわ〜」
「やーん、先輩のエッチィ!」
部員に対するセクハラだけは入念な先輩を見ると、美奈子がより頼もしい存在に思える里美であった。
**――**
部活が終り、三人で歩く。さんさんと輝いていた日も落ち、自転車と二人分の影が伸びていた。
「……でさ、なんで綾ってあんなんなんだろうね」
「うん。俺も驚いた」
紀夫の印象だと綾はあまり人と関わりを持たないタイプ。最初こそ新人素人マネージャーだからと思っていたが、二ヶ月近くたってそれが彼女の素であることを知った。
「アヤッチってクールなんだよね」
自転車の荷台に座る理恵がひょっこり顔を出す。彼女は練習中に足を捻ったと言い張り、彼に送っていってもらう約束をしていた。
「クールなのはいいけど、あたし綾のこと良く知らないからなあ。なんかどう付き合っていけばいんだか……」
「そうだね〜、中学の頃はもっと普通だったんだけど、受験の頃かな? なんか雰囲気変わったよ」
受験シーズンなら誰でも変わるだろう。特に内面と外面にギャップがある場合は。
「あと二人、誰がきてくれるのかしら? 心配だわ。っていうか、理恵は無理なの?」
合宿参加希望を出したのは他に悟と紅葉。これは里美にとってあまり嬉しい内容ではなく、とはいえ一歩上のステージでの指導を受けるべくと飲み込む。
「ゴメンサトミン、あたし補習があるから」
理恵が部活に力を入れていないのは知っている。おそらく補習がなくとも参加しないのだろう。
「あーあ、なんか大変になっちゃった。んじゃね、また明日……」
がっくりと肩を落とす里美は例の十字路を曲がると、とぼとぼと歩いていく。
「あ、送っていくよ」
「いい。君は理恵を送っていきなよ。っていうか、変なことしちゃだめだよ」
返す言葉にも力が無く、紀夫は早まった選択をさせたかもと内心後悔していた。
「変なことだって。ウフフ、この前されちゃったしぃ……」
若気の至りを突かれると恥ずかしさと嬉しさ、照れが出てくる。そのにやけた面を見せまいと紀夫は自転車に跨り、必死で踏ん張り始めた。