……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-28
「綾のここ、すごいね。俺の指を二本とも咥えてる……」
「やだ、馬鹿、言うなよそんなこと!」
乱暴な言葉遣いは照れ隠しなのか、それともはしたない身体の強がりか。
「綾はどうされると気持ちいい?」
「あたしは別に気持ちよくなりたいわけじゃなくて……」
「えっと、こう?」
指を折り曲げて抉るようにさすること数回、綾は背筋を伸ばしたり丸めたり忙しく動き回る。
「ん! やだ、それは駄目、変になる……」
「綾の変なとこ見せてよ……」
「ばかばかばか、ダメダメダメ、こんなことしたら怒るよ。里美に言うよ? いいの?」
「俺は別に里美さんの彼氏じゃないよ……それに……」
この状況に来て里美の名前が出るのはいささか不愉快になる。
「それに……」
枕を奪い取り、彼女に覆いかぶさるように乗り上げる。
「二人きりのときに他の女の名前なんて出すなよ」
「馬鹿じゃない? カッコつけん……ん、んぅ……」
紀夫は唇で綾を感じながら、理恵の憤りを理解する自分を「矛盾している」と哂った。
**――**
――ん、んう……んむぅ、ああ、キス、しちゃってる。あたし、マネージャーなんかと……なんで? なんでこうなったの?
唇を塞がれると息が出来ない。こういう時に限って鼻がつまり、息苦しくなる。かといって今唇を離すのは例え呼吸の為であっても負けた気持ちになる。
――あたしの方が上手だし、進んでるのに……。
そんな矜持が彼女の後退という選択肢をさせず、状況的に不利な睦み合いに身を差し出すことになった。
「あ、ん、ちゅ、あむ……」
舌を突き出して男を求めるのは去年処女を上げた相手で練習済み。
彼の名は意識的に思い出さないようにしている。
お互い好きだったままで、かつ、セックスのそれさえなければ今も上手くいっていたはず。とはいえ、紀夫の言う通り体質の問題なら、いつかは別れる結末かもしれない。それともどちらかが大人になれば、それなりの解決策も模索できたのかもしれない。
そういう「かもしれない」と思う自分が惨めで嫌いだった。
同情されたりするのが嫌い。
自分のことをささやかれるのが嫌い。
弱み、欠点を見せたくない。
常に完璧でありたい。
常に周囲から一目置かれていた彼女ならではの弱点。
悲劇なのは彼女がそれを自覚していないことで、今まではそれを努力でカバーしてきた。
しかし、体臭とそれにまつわる余計な悩みを克服できず、彼女は他と交わることを避けてしまった。