……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-14
「でね、受験だったし、遊ぶ余裕もないから別れたんだってさ。多分それだと思うけど、違うかな?」
「へー、そうなんだ。でも、彼氏を振ったにせよ振られたにせよ、男を嫌いになるならともかく……」
拒まれたのは紀夫だけではなく里美も……。
この原因を調査究明しない限りは今の状況が続くわけで、それはあまり部の雰囲気にとって良いことでもない。それでなくともまとまりの無い部であり、このままでは来年の新入生に示しがつかない。それは根っからの運動部員である里美にとって、由々しき事態なのであった。
「アヤッチってさ、結構どころか、かなり思い込みが激しくてね、一度こうだ! って決めちゃうと人の話全然聞かないの」
ここ三ヶ月、練習のときの彼女を見ていたが、たまに来る先輩の美奈子の助言についても断ることが多かったのを覚えている。むしろよくそこまで扱いづらい後輩に手を焼こうとする美奈子に部活愛を感じたほどだった。
「天才肌っていうのかな? ちょっぴり付き合いづらいの」
「あーそれわかる。だからあたしも……」
胸の前で手をぎゅっと握る里美は何かを思い出しているようだが、ここを突くと余計な話に脱線しかねないと敢えて放置する。
むしろ紀夫としては、別件でもう一つ気になることがあったりもしたわけで……。
**――**
その日の気温も真夏を実感させるものであり、三十度を超えてまだ上がろうとしていた。
今年一番の夏日の触れ込みに部員達は水分補給と室内での筋トレに従事していた。
体育館の隅っこの比較的涼しい場所で一列になる陸上部員達。この陽射しに喜ぶのは洗濯物を干す紀夫ぐらいで、みなドリンク片手に熱中症対策をしていた。
が……、
「一年、あれ? 日吉さんは? サボリ?」
部長の久恵がボールペンで腹筋をしている部員の頭を数えていると、例の長身ショートカットの女子がいない。
「えっと、綾は自主トレで……」
「え? まさかこの暑い中ランニングとかないよね?」
美奈子がムクリと起き上がり、困惑した様子で視線を送る。
「はい、止めたんですけど、メニューだからって……」
「馬鹿じゃないのあの子。もう、なにかあったらどうするのよ」
「ちょっと美奈子? どこ行くの?」
「あの子の自主トレのコース見てくる。倒れてたら大変だもん」
「なら私も……」
「久恵はいいよ。だって……さ」
何かを飲み込んだまま美奈子は颯爽と出口に走る。